犀の角のように

H30年7月9日より勉強ブログになりました。32歳からの学び直しの記録です。

2016年上半期の気に入ったアルバム

自分の中では旧譜とのバランスをとって新譜を聴いているつもりでも、なんだかんだとそれなりの枚数の新譜に触れることが出来てしまっているのだから、改めてApple Musicの影響の大きさと感じている。有難いやら申し訳ないやら…。

しかしながら、それでも新譜については話題になったものを聴くだけで手一杯になっていた気がしなくもない。各ジャンルごとにちゃんと掘ってる人が聴いている作品に興味がある。

では、現時点で感覚的にフィットした作品を並べてみたいと思う。

 

・The Loch Ness Mouse - The Loch Ness Mouse

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・Julian Lage - Arclight

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・Anderson .Paak - Malibu

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・Giorgio Tuma - This Life Denied Me Your Love

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・KING - We Are King

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MOODYMANN - DJ KICKS

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・Christopher Zuar Orchestra - Musings

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agraph - the shader

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大西順子 - Tea Times

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・蓮沼執太 - メロディーズ

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原田知世 - 恋愛小説2~若葉のころ

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・CRCK/LCKS - CRCK/LCKS

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【曲単位】

 

アルバム自体良さそうですけど、まだ聴けてない。

アイドルの曲をほとんど意識的に聴かなかった上半期の終わり、ふいに飛び込んできたイイ曲。

2:55〜のヴァイブス溢れるダンス、ありえん良さみが深すぎるぅ。

白人のおじさんジャズミュージシャンをバックに従えたMV。たまには黄色人種が主役になってもいいじゃないか。

 

エグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)について

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2012年頃からの再発や初CD化を機に聴きはじめたブラジルのミュージシャンで、主にピアノと多弦ギターを扱うエグベルト・ジスモンチEgberto Gismonti)について、浅学ではありますが自分のため記録の意味合いも含めて少し書いてみたいと思います。

ジスモンチには主にECMというジャズ/クラシックレーベルからリリースされた作品と、(ブラジル)EMIからリリースされた作品があります。

ECMをご存知の方はわかると思いますが、ECMからの作品はそのレーベルカラーに沿ったアコースティックな内容のものがメインになっています。

ではEMIからの作品はどうかと言うと、70年代半ばのジャズロックプログレっぽいアルバムであったり、80年代のシンセサウンドを大胆に導入したアルバムであったりと、その当時の新しい音楽の潮流も取り入れていて、ECMから出した作品とは全く別の一面が見えてきます。

ECM/EMIの作品に通して言えることは、幼少からのクラシック教育をベースとした高い演奏能力と作曲能力が前提にあるため、スタイルの変化があろうとも高い水準のクオリティがどの作品にも備わっていることであろうと思います。

そのため、クラシックやジャズが好きでECMの諸作を聴く人、プログレなどのロック色のある音楽が好きで辺境プログレを聴く感覚でその手の作品を聴く人、エレクトロニック・ミュージックが好きでテクノの走りを聴く感覚でその手の作品を聴く人、とそれぞれの趣味・趣向によって”ジスモンチの最高傑作”についての意見が分かれるようです。

今更ジスモンチに対する再評価も何もあったもんじゃないとは思いますが、近年また注目を集め始めているジャズシーン、<Brasil 1000>による廉価再発で身近になったブラジル音楽、これらに関心がある人にとっても、ジスモンチの作品はとても刺激的なものだろうと思います。

(余談ですが、某JTNCに載っていたFred Hersch×Julian Rageの2013年のデュオアルバム「Free Flying」の中にもジスモンチに捧げられた曲(Free Flying)があります。)

 

僕も全作品を聴けたわけではないですが、現時点で好きなアルバム10枚を選んでみました。Youtubeに丸々アップされているアルバムも沢山あるので、もし興味を持たれた方が居ましたら是非色々と聴いてみてください。

また、ジスモンチの代表的な曲は複数のアルバムに様々なアレンジで録音されているので、気に入った曲の色々なバージョンを聴き比べるのもお薦めです。

 

1. Charlie Haden,Egberto Gismonti「In Montreal」ECM 2001

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ベーシストのチャーリー・ヘイデンは、色んなアーティストとのデュオアルバムを残しているのですが、本作はジスモンチ(ギターまたはピアノ)とのデュオライブを収めたものです。

収録されている9曲のうち7曲がジスモンチの曲で、ECMの歴史の中でも傑作と呼んでいいのではないかと思います。

Charlie Haden & Egberto Gismonti - Palhaco (Live in Montreal) - YouTube

Frevo - Egberto Gismonti Charlie Haden - YouTube

 

2. Egberto Gismonti「Cidade Coraoção(心の街)」EMI 1983

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シンセを導入したドリーミーでファンタジックな作品。

長男の誕生とともに作り始めた子供シリーズ3部作の三作目。

Egberto Gismonti - Realejo - YouTube

Egberto Gismonti - Fazendo Arte - YouTube

 

3. Egberto Gismonti 「Alma(アルマ)」EMI (ECM盤は1986)

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ジスモンチの(ほぼ)ソロピアノアルバムです。(裏で若干シンセが鳴ってたりしますが…)

ECMからも同名タイトルのソロピアノアルバムが出ているのですが、今回選んだのはEMI盤です。

ECM盤(13曲収録)とEMI盤(9曲収録)では収録曲数に違いがあり、代表曲であろう「7 Aneis」もECM盤のみに入っているのですが、EMI盤のほうが音がいいので個人的にはこっちの方が好きです。(両方聴き比べると尚良し、ということで…)

Egberto Gismonti - Baião Malandro - YouTube

Egberto Gismonti - Loro - YouTube

 

4. Egberto Gismonti「Em Familia(エン・ファミーリア)」EMI 1981

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前述の子供シリーズ3部作の一作目。

ジャケットの男の子が、誕生した息子のブランキーニョくんで、この子に宛てた曲も収録されています。

本作もEMI録音ですが、他のEMI作品に見られるような(いい意味での)やり過ぎ感はあまりなく、ECM側のリスナーにとっても、スッと入りやすいアルバムになっている気がします。

Egberto Gismonti - Lôro - YouTube

EGBERTO GISMONTI - Branquinho - YouTube

 

5. Egberto Gismonti 「Carmo(カルモ)」EMI 1977

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全部の曲がそうだというわけではないですが、トータルでみるとファンク色が強い曲の印象が強く残る作品に思います。

Egberto Gismonti - Baião Malandro - YouTube

Raga - Egberto Gismonti - YouTube

中期以降はインスト曲が多いイメージのですジスモンチですが、本作にはボーカル曲もたくさん入っています。

Egberto Gismonti - FELIZ ANO NOVO

 

6. Egberto Gismonti Group「Infancia(インファンシア)」ECM 1990

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ジスモンチにNando Carneiro(guitar, synthesizer)、Zeca Assumpção(double-bass)、Jacques Morelenbaum(Cello)を加えた4人グループでのアルバム。

チェロのジャキス・モレレンバウムは、日本では坂本龍一や伊藤ゴローとの共作で名前が知られているのではないでしょうか?

代表曲であろう「7 Aneis(7つの指輪)」ですが、ピアノソロ以外のアレンジで音源になっているものだと本作に収録されたものが今のところ一番好きです。

Egberto Gismonti Group - 7 Anéis - YouTube

Méninas (E. GISMONTI ).wmv - YouTube

 

7. Egberto Gismonti「Circense(シルセンシ)」EMI 1980

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「サーカス」をテーマにしたアルバム。

インド人ヴァイオリン奏者のL.シャンカルをフィーチャーしたの2曲目「Cego Aderaldo」であったり、ブラジルのルーツミュージックからのインスパイアされたような曲が並び、トータルでどことなく多国籍感があります。

Egberto Gismonti - Karate - YouTube

Egberto Gismonti - Cego Aderaldo - YouTube

Egberto Gismonti - Ta boa santa - YouTube

 

8. Egberto Gismonti 「Coracoes Futuristas(未来派の心臓)」EMI 1976

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ジャズロックプログレ的な曲の印象が強い一枚で、そっちの音楽が好きな人には強く訴求するのではないかと思います。

これをベストに挙げる人も結構いるようで、それもわかる気がします。

Egberto Gismonti - Dança Das Cabeças (1976) - YouTube

Egberto Gismonti - Baião Do Acordar (1976) - YouTube

 

9. Egberto Gismonti「Sonho 70(ソーニョ70)」Polydor 1970

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ジスモンチの2ndアルバムで、EMI、ECM以前のポリドールからのリリース。

豪華なオーケストレーションに妻であるドゥルシ・ヌネスのボーカルも乗ったブラジリアンポップス的感触の初期名作。

Egberto Gismonti Sonho 70 Ciclone - YouTube

Egberto Gismonti-O mercador de serpentes. - YouTube

 

10. Egrbeto Gismonti「Trem Caipara(トレム・カイピーラ)」EMI 1985

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ジスモンチによるブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスのカバーアルバム(チリのリカルド・ヴィラロボスではないですよ…念のため…)

ブラジル風バッハならぬ、ジスモンチ風ヴィラ=ロボスといった感じでしょうか?

ジスモンチのデュスコグラフィの中ではおそらく最もエレクトロニックミュージック寄りで、かなりの変わり種です。

DJ Shhhhhさんもプレイすることがあるらしい。(大阪のNEWTONE RECORDSさん情報)

Egberto Gismonti - Bachiana Nº5 - YouTube

Egberto Gismonti - Cantiga - YouTube

 

ここから漏れたものの中にも、

2016年4月にジスモンチとのデュオコンサートを控えていて同年3月に亡くなったブラジルのブラジルのパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスとのデュオアルバム

「Danca Das Cabecas(輝く水)ECM」1977

「Duas Vozes(ふたつの声)ECM」1985    の2作や

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前述のジスモンチとチャーリー・ヘイデンの2人に、ECMの顔役サックスプレイヤーであるヤン・ガルバレクを加えたトリオ形式のアルバム、

「Magico(マジコ)ECM 」1980

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などの世評の高そうな作品もありますので興味があれば是非。

 

 

 

私的年間ベストアルバム2015

今年のリスニングの傾向を総括すると、高いプレイアビリティを前提とした、心の深いところに作用するような抒情的な何かを感じられる音楽に惹かれた一年だった。

そういう意味において、クラシック音楽とクラシックの教育をベースに持つ音楽家の作品がより身近に感じられるようになったのも今年の大きな収穫だったように思う。

もちろん、去年から続くポップス、ジャズへの興味も継続している。

今年はApple Musicなどのサブスクリプション音楽配信サービスが日本でもスタートし、新譜も含め、様々な音楽を容易に聴けるようになった。

気になった作品を手当たり次第にノンストレスで全編聴けてしまうことに対する罪悪感もありつつ、リスニング環境の大きな変化に対する喜びもあった。しかしながら、「1時間の音楽を聴くのに1時間かかる」という当たり前の現実が歯止めになって、まだまだ聴きもらした作品もあるんだろうなというのが実感である。

ただ、気になるのはやはり音楽家の生活である。作品からの収入で生活することが更に難しくなることは容易に予想される。

「本当に気に入った作品にはきちんとお金を落とす」という態度だけは、大好きな音楽文化を守っていくという意味で忘れずにいたい。(真面目か)

 しかし、OPNもArcaもGrimesもKelelaもRustieもFloating PointsもTame ImpalaもJamie xxもAlabama Shakesも聴いた上で、それらを一つ入れていないのは明らかに時代についていけてない感じが…。

 

30.  ウワノソラ'67 / Portrait in Rock 'n' Roll

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ウワノソラ'67 - 年上ボーイフレンド - YouTube

ナイアガラのファンであることを全く隠そうとしない自主制作の一枚。

人によっては退嬰的と受け取る可能性があるほど、本当にナイアガラなのである。

しかし、間違いなく赤字になるであろう自主制作で本当に好きなことをやった感じは伝わってきて、個人的には大変可愛らしく好ましい気持ちになる作品だった。

一般のCDのような流通に乗っていないため、ネットで直接買うか、扱っているレコード屋で買う必要がある。

 

29  Snarky Puppy & Metropole Orkest/ Sylva 

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Jazz〜フュージョンやダンスミュージックまでを柔軟に取り入れたユニットのメジャーデビュー盤であり、様々なアーティストとコラボしているMetropole Orkestとの共作。

ライブ録音のようで、曲終わりには拍手が聴こえる。

オーケストレーションが厚く乗っている曲が多い関係か、youtubeなどで観られるライブ映像などと比べ、比較的聴かせる曲が多くなっている印象。

 

28.  ペトロールズ / Renaissance

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【ペトロールズ】雨 新音源【長岡亮介】 - YouTube

東京事変浮雲こと長岡亮介のバンドといて、存在自体は10年近く前から知っていたのだが、ちゃんと聴いたのは本作が初めてだった。

ギターを弾いてる時の長岡氏には、いつも抱かれたいと思ってしまう。

「雨」、名曲過ぎますね。

しかしながら、三角のパッケージの収納の不便さったらない。

 

27.  Kamasi Washington / The Epic

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Kamasi Washington - 'Change of the Guard' - YouTube

スピリチュアルジャズが音の厚みを盛り盛りにして現代に蘇り、凄い熱量で迫ってくる。しかも3枚組173分で、牛丼!カツ丼!親子丼!と言ったような圧倒的ボリューム感。通して聴くと若干胃もたれしそうである。(こんなことを宮本浩次に言おうものなら殴られそうだ)

ジャズに関心の薄いピッチフォークが8.6点とBest New Musicをつけた事も記憶に新しい。

来日公演の評判は上々だったようだ。この音楽は、生で体感したらもっと刺激的に聴こえるのかもしれない。

 

26.  OMSB / Think Good

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OMSB "黒帯 (Black Belt Remix)" - YouTube

SIMI LABのOMSBの2ndアルバム。

ネガティブとポジティブを行き来しながら、それでも前を向く意志を感じる作品。

「誰かにとっての最高でも 誰かにとってのクソ野郎

誰にも合わせるつもりはないが 実は誰にも嫌われたくないんだ」

わかり過ぎた。

 

25.  Bill laurance / Swift

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Bill Laurance - Swift (Swift) - YouTube

Sanrky Puppyのキーボード/ピアノ奏者の2ndアルバム。

ジャズやクラシックが持つ耽美主義的な一面を、グルーヴ感のあるドラムやエレクトロニックミュージック的なビートで程良く中和したようなバランスの曲が多い。 

前者の資質をより強く押し出したら、この先ECMからのリリースも有り得るのかな、という印象を持った。

 

24.  Donnie Trumpet & The Social Experiment / Surf 

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Donnie Trumpet & the Social Experiment - Sunday Candy "Short Film" - YouTube

チャンス・ザ・ラッパー参加のバンド「Social Experiment」のフリー・ダウンロードアルバム。

ゲストにエリカ・バドゥ、ジャネル・モネイ、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ジェレマイ、ジェシー・ボイキンス三世、J・コール、B.o.B、バスタ・ライムスビッグ・ショーンなどが参加している。

エリカ・バドゥ、ジャネル・モネイあたりは流石にわかるけれど)正直、このあたりの音楽にそこまで明るくないので、どのくらい豪華なのかはピンと来ていない。(汗)

本作やThe Internet、Kendrick Lamarの新譜、Brainfeederの最近の傾向を見るとR&BHiphopの生音化が加速してる気がする。今後も楽しみ。

 

23.  bird / Lush 

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2006年の「BREATH」以来となる冨田恵一プロデュースの作品。

「Jazz The New Chapter的な新譜に刺激を受けた冨田さん(以下、トミタン)がトミタンなりにそれらの音楽を消化したポップスを作ったらこうなった」という感じ。

生楽器による流麗なアレンジの印象が強い(ように思う)トミタンワークスだが、本作ではシンセサウンドが目立ち、若干いつものイメージとは異なる出来にも思われる。

聴けば聴くほど味が出てきそう…な気もするが、現時点ではこの位置。

  

22.  一十三十一 / THE MEMORY HOTEL

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一十三十一「Labyrinth ~風の街で~」MV - YouTube

架空のホテルを舞台とした「砂漠とミステリー」をテーマにして制作された本作。

CITY DIVE以降の現実世界を世界をテーマにした一連の作品とサウンドにおいては延長線上にありつつも、更に大人っぽさや落ち着きが増したような、ほんの少し違う印象を受けた。

しかし、毎回毎回間違いない作品をリリースしてくれてはいるが、そろそろまた新しい一十三十一も聴いてみたいという気持ちもないわけではない。人間とはなんと贅沢な生き物なのだろう…。

 

21.  cero / Obscure Ride

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cero / Orphans【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube

リリース当時、「ceroがブラックミュージックに接近した」と盛り上がったのが印象深い本作。

ディアンジェロをもろにパク…オマージュした1曲目で自らを「Replica」と名乗っているのも潔くて気持ちが良かった。

「Summer SoulをBGMにして彼女と夏のドライブをしたい」なんていう去年の一十三十一のアルバムで言ってたようなことを今年も口にしておきながら、結果はまぁ聞くまでもない感じでござんした。

確かに今聴いてもいいアルバムだと思うのだけど、夏を過ぎてからこのアルバムを聴くことがあまりなかったなというのが正直なところ。

きっと、僕が20代前半で聴いていたら人生にもっと深く関わる一枚になっていたのかも、という気がしなくもない。 

 

20.  Chassol / Big Sun

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Chassol - Birds, Pt. I - YouTube

カリブ、マルティニークをルーツに持つのフランス人 ピアニスト/ 作曲家 。 

本作はシャソールの出身地であるアンティル諸島でフィールドレコーディングで採集した話し声や雑踏、鳥の鳴き声などを編集、ループさせ、そこに演奏を重ねていく、といったスタイルの作品。

言葉にするとたったこれだけのことなのだが、アントニオ・ローレイロやアンドレ・メマーリのような南米の有機的な音楽にも似た印象を受ける。

 

19. 三宅純 / 星ノ玉ノ緒

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JUN MIYAKE-HER EXTRA EYEBALLS - YouTube

93年にリリースされた三宅純の初期の名作のリマスター。手がけたのは坂本龍一の仕事なども多く手がけているオノ・セイゲン。作品の内容的にはもっと上位でもいいのだけど、リマスター盤なのでこのあたりに。

アマゾンでは、CDの内容紹介に「CM音楽の作家として有名な三宅純」とあるが、三宅純の音楽を聴いたことはあっても、名前を知っている日本人は僅かなのではないだろうか?

本来なら巨匠クラスの評価を受けていてもいい作家なように思う。

 

18.  Benny Sings / Studio

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Benny Sings - Straight Lines (Official Audio) - YouTube

Benny Sings」 という名前はクラブジャズが流行っていた頃に耳にしていた。(JAZZANOVAのレーベルSonar Kollektivから2ndアルバムを出している)

その後、僕自身とクラブジャズ的な音楽との間に距離が生まれ、なんとなくそういうイメージを持っていたBenny Singsもしっかり聴かずにここまできていた。

本作のリリースで久しぶり名前を耳にし、興味本位で聴いてみたところ、あまりにも真っ当で風通しのいいポップス具合に驚いた。

調べてみると、本人の無人島10枚が見つかった。なるほど、初めからクラブジャズの文脈に乗せるようなアーティストではなかったのだな、と合点がいった。(クラブジャズというムーブメント自体を否定するつもりはない)

結局、僕自身が「ジャンル」に振り回されて聴かず嫌いをしていたというだけの話である。本当に猛省した。

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17.  入江陽 / 仕事 

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入江陽 - 鎌倉 [duet with 池田智子(Shiggy Jr.)] - YouTube

医科大学を卒業し、医師としての研修を中断して音楽の世界という茨の道に飛び込んだ入江陽。ご両親の深いため息が聞こえて来るような経歴だ。(余計なお世話)

ブラックミュージックを消化したポップスという点では、話題になったceroの新譜と同じではあるが、その消化の仕方において、入江陽のセンスが一枚上回ったように僕は感じた。癖になる一枚。

 

16.  中納良恵 / 窓景 

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中納良恵 - 濡れない雨 MV

中納良恵(EGO-WRAPPIN')が「ソレイユ」以来、7年ぶりにリリースしたソロアルバム。

今年1月にリリースされていたが、僕のtwitterのTL上ではあまり話題にしていなかった。

しかし、サマソニで観る機会がありそうということで本作を聴いてみたら想像した以上に素晴らしかった。中納良恵という年齢を重ねた(しかし、情熱的な)シンガーソングライターが持つEGO-WRAPPIN'とはまた別の世界がある作品だった。

そして、サマソニ2日目のライブ。この日のベストアクトは、全てを持っていったD'で揺るがないが、中納良恵のパフォーマンスは個人的に裏ベストアクトと言えるものだった。

だが、その場にそれほど多くの人がいたわけではない。むしろ、客入りはまばらだった。おそらく中納良恵というアーティストのファンが、EGO-WRAPPIN'についてる女性ファンで固定されているのだろうということは想像に難くない。

全体を通して聴いた時にルーツとして感じるのはやはりジャズであろうが、(上に貼ったMVのような)荒井由美ライクなニュー・ミュージックもあれば、音響面からアプローチしたような曲もあり、一口に語りきれない内容のアルバムである。

これは僕個人の感想だが、男女問わず、この作品が刺さる層はもっと広く存在するのではないかという気がしてならない。

とりあえず聴いてみてほしい一枚だ。

 

15.  Hiatus Kaiyote / Choose Your Weapon

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Hiatus Kaiyote - Breathing Underwater - YouTube

ロバート・グラスパー以降」、「Brainfeederとの同時代性」を感じるオーストラリア産ソウル・ミュージック。訛ったドラムに乗るネイ・パームのネオソウルディーバ的なボーカルがハマっている。

JTNC3のインタビューを読むと、様々な環境から集まったメンバーそれぞれがアイディアを出し合って制作しているらしい。

オーストラリアというこの手の音楽の中心地から離れた場所でありながら、アメリカの大御所から若手有望株にまできちんとフックアップされているのは英語圏という優位性によるところもあるのだろうか。

日本の若手からも世界で戦えるグループが出てくることを期待したい。

 

14. 石若駿 / Cleanup

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ドラマーとしてのスキルについては恐らく誰もが認めるところと思うが、作曲に関しては全くの未知数だったため若干の不安もあったが全くの杞憂だったようだ。

ストレートアヘッドな曲からロック色のあるダイナミックな曲、情感溢れる曲とバリーションは様々だが、全体を通して醸し出される印象が硬派すぎるくらい硬派で痺れた。そして何より、どの曲も次から次へと格好いいドラムのフレーズが登場し、耳を奪われた。

買ったばかりでまだ聴き込めていないので、もっとじっくり楽しんでいきたい。

 

13.  三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza / 三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza 

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『三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza』 Peregrinación - YouTube

クラシカルなタンゴをベースにした室内楽

タンゴに関してはピアソラしかまともに聴いていないといった具合に全然明るくない僕にとっては、時に悲しく、時に穏やかに謳う只々美しい音楽だった。

現在におけるタンゴというのは、日本に限らず他の国においても、クラシックの教育を受けた人が演奏する事が多いようだ。このオーケストラも、リーダーの三枝伸太郎を含め、大体がクラシックの教育を受けたメンバーで若手実力派奏者で構成されている。

Vo.として小田朋美嬢も参加しており、また小田朋美のデビューアルバムに参加していた奏者も本作に参加している。

三枝伸太郎、小田朋美、(後ほど出てくるが)挾間美帆は、共に今年29歳になる同い年であり、それぞれが大学でクラシックの教育を受け、現在、タンゴを基調とした室内楽、クラシカルな土台を感じさせるポップス(?)、ラージアンサンブルのジャズ、とそれぞれに素晴らしい音楽に取り組んでいる。

思えば、古川麦や今引っ張りだこのドラマー、石若駿も藝大卒だ。

単純に僕の音楽の趣味が変わってきた影響なのか、最近の音楽大学の風土が変わってきているといったような現象があるのかはわからないが、今、きちんとした音楽教育を受けてきた若い人の音楽がみな一様に面白い。

 

12.  Sufjan Stevens / Carrie & Lowell 

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Sufjan Stevens, "Should Have Known Better" (Official Audio) - YouTube

本作のタイトルは、亡き母と(スフィアン先生に様々な音楽を教えてくれた)義父の名前からきており、スフィアン先生という人間を形作っている極私的な体験から出来た非常にパーソナルなアルバムのようだ。

ドラムスやストリングも使用されず、過去作と比べても本作はかなり音数が抑えられている。しかしながら、聴感上の充実感は完全に保障されており、そのあたりは流石としかいいようがない。

 

11.  服部峻 / MOON

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Takashi Hattori - Old & New - YouTube

twitter菊地成孔による激賞の記事「孤高の天才」という触れ込みの記事、さらにはエレキングがほぼ同時期に流れてきて、思わず釣られてしまった。(ちょろい…)

しかし、それだけ褒められていると、最初は「さすがに言い過ぎっしょ…」と構えて聴いたのだが、「あ、なるほど、確かに凄い。」と感じさせるだけのパワーがあった。

現代音楽やジャズ、インド旅行で得たインスピレーションと民族音楽的なニュアンス、それらが渾然一体となって、鮮烈な新しい世界を描いてしまっていると感じた。

Arcaなどとの比較を度々見かけるが、サウンド自体の類似性というよりも、音楽を聴いた時の驚きの種類が似ているという意味なら個人的に納得出来た。しかし、個人的にはArcaの2ndよりこちらのほうが断然面白かった。

 

10.  dCprG / Franz Kafka's South Amerika ~フランツ・カフカ南アメリカ

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dCprG /Franz Kafka’s South Amerika 試聴用Special Edit Part.1 - YouTube

アルバム通して熱い演奏。

本作より小田朋美が鍵盤で加入したことにより、音楽性にも変化があったとのこと。

いつかdCprGのライブを観たいとは思うものの、仙台のライブですら客入りが芳しくなく、メンバーの宿泊費の予算が取れなかったため、演奏を早めに切り上げてその日の新幹線で全員が東京に戻った、という話を聞くと、僕の地元である石川などには来てくれるはずもない。

機会があれば遠征して観てみたい。 

しかし、菊地さんの自身の作品やプロデュースワークも含め、どれも充実した作品であり、菊地さんは今一番脂が乗っている時期なのかもしれない。

 

9.  KIRINJI / EXTRA 11

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KIRINJI - EXTRA 11 (アルバム・トレーラー) - YouTube

去年のリリースされたKIRINJI「11」は僕の去年の年間ベストでは15位に置いたわけだけど、それから1年の間に結局何度も何度も繰り返し聴いていたことを思うと、もっと上でもよかったように思う。

さて、本作はKIRINJI「11」に収録されていた楽曲のライブ音源にポストプロダクションを施して再リリースした作品である。

元がライブ音源な上、アレンジも大きく変わっており、聴きなれた「11」の楽曲たちがまた新鮮な魅力を放って感じられる。

兄弟のキリンジ時代においては、リリースされた音源がその曲における完成系であるように感じられたが、KIRINJIにおいては楽曲がバンドの成熟とともに変化・成長していくことを本作が示したように思え、改めてKIRINJIが堀込高樹のワンマンバンドではなく、ちゃんと”バンド”なのだなと感じることが出来たように思う。(念のため、どちらがいい悪いと言う話ではない)

メンバー達の映像を観てると歳の差こそあれ、皆んな楽しそうにKIRINJIというバンドに取り組んでいるように見え、こんなバンドなら今からでもやりたいなと思える。熱心な固定ファンも沢山いるので活動も安定して行われていくだろう。本当にいいバンドだと思う。

 

8.  Lauren Desberg / Twenty First Century Problems 

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グレッチェン・パーラト弟子筋のジャズボーカル。どの曲も最高に美メロ。

いつ聴いてもメロメロになっちゃうよぉ…ローレンたん…ハァハァ…。

 

以上。

 

7.  KIDSAREDEAD / THE OTHER SIDE OF TOWN

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Kidsaredead - Typical Captain Achab - YouTube

Lamp染谷さんのレーベル、Botanical Houseからのリリース。

BeatlesTodd Rundgrenといった60〜70年代のロックミュージックが持つポップネスとピュアネスがそのまま現代に鳴っている印象を受ける本作。

「時代が時代ならどれだけ売れていただろう」と思わなくもないが、現代においてももっと沢山の人に聴かれるべきモノであろう。

Lamp周辺やシティポップ好き(もはや死語か…)の若い人たちだけでなく、おじさん世代の音楽好きの人にもグッとくること間違い無しの作品だ。

届くべき人に届いていない音楽が世の中には沢山有りすぎると痛感する。

twitterをみていると、来日時のバンド編成でのライブの評判がすこぶる良かった。次の来日は実現するのだろうか…。次があるなら是非観てみたいものだ。

 

6.  Jim O'Rourke / Simple Songs

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Jim O'Rourke - Half Life Crisis - YouTube

ジム・オルークの6年ぶりの新譜であり、14年ぶりとなるボーカル物。

 

シンプル【simple】

[形動]単純なさま。また、飾り気やむだなところがなく、簡素なさま。

 

なるほど、確かに本作はその通りなのかもしれない。

しかしながら、本作に宿っている豊かさと説得力は一体何なのだろう。

この作品が単純に、易しく作ることが出来ると思ったら、それは大きな間違いであろう。おそらく偏執的なまでの細部への拘りがあるはずだ。

聴けば聴くほど好きになっていきそう、そんな作品だった。

 

 

5.  北園みなみ / Never Let Me Go 

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北園みなみ「ひさんなクリスマス」 - YouTube

去年の「Promenade」に続き、今年は「Lumiere」「Never Let Me Go 」と2枚のミニアルバムを出した北園みなみ。

一枚のミニアルバムとしては「Never Let Me Go 」が一番まとまっているように感じた。

「Promenade」を去年の年間1位においた以上、本作も同等のところにおいてしかるべきなのかもしれないが、このアーティストに対しては少々特殊な思い入れがあり、他の作品と違うモノサシで比べている気がしないでもない。そのため、今回はとりあえずこの位置においてみた。

しかしながら、そういった思い入れを抱かせてくれる自分にとって特別な音楽家が同じ時代を生きていることを素直に喜びたいと思う。

本作は魚返明未(Pf)、楠井五月(Ba)、石若駿(Dr)などの若手ジャズミュージシャンが参加しており、今後の活動の更なる広がりを予感させるものとなっている。

とはいえ、本人にとってはまだまだ納得のいく作品が作れていないようである。本人も納得の快作を期待してやまない。

  

 

4.  挾間美帆 / タイム・リヴァー

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Miho Hazama: The Urban Legend - YouTube

2013年の1stアルバム「Journey to Journey」の時点で耳の早い人には届いていたようだが、本作で僕の鈍いアンテナもようやく挾間美帆という存在をキャッチした。

多少自虐を挟んだものの、僕以外にもそういう人は多いのではないか?

しかしながら、今年の挾間美帆ワンマンには錚々たるミュージシャンたちが集っており、今年の挾間美帆が如何に見逃せない存在であったかが伝わってくるようだ。

ちなみに「挟間」ではなく、「挾間」と書くのが正確らしい。多くのメディアが間違って書いているが、本人としてはそのあたりに大した拘りはないのかもしれない。

そして、挾間美帆と小田朋美(小田朋美「シャーマン狩り」 - 雨にぬれても)が高校の同級生だということを知り、個人的にとても驚いた。

小田朋美のツイートでその件を知ったのだが、そのツイートに対してついたRTやファボが本当に僅か数件といった感じで、この特別な二つの才能が高校時代に時を同じくしていたことに対する驚きを共有出来る人はまだそれほど多くないようだ。 

挾間美帆はクラシックからジャズへの転向組であり、それは音楽にも如実に表れている。ジャズのリズムとクラシックのオーケストレーションが見事に調和し、エネルギッシュでありつつも繊細で美しい世界が浮かんでくるように思う。

また、今年こういう記事(吉松隆 / サクソフォン協奏曲「サイバーバード協奏曲」)を書いたのだけど、挾間美帆は吉松隆のタルカス(正確にはプログレELPのタルカスを吉松がオーケストラに置き換えたもの)を吹奏楽に再アレンジするという仕事を過去にしており、「色々繋がるものだな」としみじみ感じた。

↓は挾間美帆ワンマン後の楽屋で写真を撮る3人(左:小田トモミン、中央:我らがN/K、右:挾間ミポリン

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3.  Kendrick Lamar / To Pimp A Butterfly

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Kendrick Lamar - Alright - YouTube

このアルバムに関しては、リリックについてもサウンドについても、もっと読むべきテキストがあちこちにあると思うのであまり多くを語るつもりはない。(大して語れないので…)

今年の僕自身の耳の傾向からすれば、ヒップホップは比較的刺さりにくいジャンルであったかもしれない(実際に新譜を聴く優先順位もかなり低かった)が、やはりこれは文句なく格好良く響いた。

このアルバムがきちんとチャートで1位になるアメリカって、なんて凄い国なんだろう。信じられない。

 

2.  CHRISTIAN SCOTT / Stretch Music

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Christian Scott - Sunrise In Beijing (feat. Elena Pinderhughes) - YouTube

今、ジャズが最もスリリングなジャンルであることを体現したような一枚。

凄まじいグルーヴの上に立ち上がる抒情的なフレーズの嵐。

作り込まれた音像が放つ強烈な格好良さとほど良い甘美さのバランスが絶妙。

過去のあらゆるジャズを継承し、正統派でありながら、なおかつジャズを新しいステージに導いてくれる作品のように感じます。

僕の「2015年かっこいいジャケット大賞」にもノミネートしています。

  

1.  PIZZICATO ONE / わたくしの二十世紀

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私が死んでも - YouTube

とにかく沁みるのである。沁む。沁む。沁むのである。

小西康晴が自身が過去に関わった楽曲の中で、特に歌詞が気に入っている曲を(中には複数の曲を一曲にまとめている物もある)自身が家で聴きたい形でリアレンジしたものが本作、とのこと。

どの曲もとことん削ぎ落とされたアレンジがなされ、その結果浮かび上がるのは小西康晴の強固なメロディと(厭世観や死生観が練りこまれた)歌詞である。

小西康晴という人は、もしかしたら寂しい人なのかもしれない。音楽以外に心から愛せる人や物が身近に存在しないのでは…?余計な御世話過ぎるが、僕にとってあまり他人事とは言えない。

このアルバムは、東京行きの飛行機の中で聴き、サマソニディアンジェロのライブを観て、ホテルへの道中で聴き、そして帰りの飛行機でも聴いていた。その事は多分一生忘れない。

もっと歳を重ねて、改めてこのアルバムを聴くとまた違う感触が得られる気がする。これからの人生の様々なポイントで聴き返してみたい。そんなアルバムだ。

 

 

 

 

 

吉松隆 / サクソフォン協奏曲「サイバーバード協奏曲」

今年の下半期に入ってから、吉松隆の音楽を楽しんでいる。おそ松でもカラ松でもチョロ松でも一松でも十四松でもトド松でもなく、吉松である。

 

吉松氏は1953年生まれで2015年現在、62歳。

この時代に生まれた現代音楽の作曲家ならば、時代の流れとして無調音楽を作ることが当たり前であったようだが、吉松氏はそういった流れや派閥には乗らず、調性感とメロディーのある音楽を孤独に作ってきた方のようだ。

実際に、吉松氏の音楽は叙情的で非常に美しいものが多く、長い年月をかけて作り上げられた調性というシステムが美しい音楽を作る上で如何に優れたモノなのかを感じさせてくれる。

それぞれをじっくり聴き込むとまではいかないものの、現状9枚ほど氏のアルバムを聴いた上で、現時点で僕が一番気に入っているのは

サクソフォン協奏曲「サイバーバード協奏曲」という曲。(1994年初演)

 

この曲はクラシックサクソフォン奏者の須川展也氏への委嘱作品とのこと。

(恥ずかしながら、この曲を聴くまで須川展也氏のことは存じ上げなかったのだけど、吹奏楽やサックスをやっている人の間では凄く有名…らしい。)

素人ながら、サックスが木管楽器の仲間であることを改めて感じさせるような柔らかい音を鳴らす人だなと感じた。

 

この曲には、

この曲を作曲中に、吉松の妹が癌で死去している。連日徹夜で看病をしながら病室で作曲を進めていた吉松に、「生まれ変わったら鳥になりたい」と言ったという。(wikipediaから引用)

といったエピソードがある。(病院の枕元で書いたのが上の動画8:50〜の第二楽章)

鳥は吉松氏の創作にとっても特別な存在であり、多くの曲のタイトルにBirdという言葉が付けられている。

日本野鳥の会の長靴をフジロックでしか使わなかった”凡”な僕には理解できないほど、鳥が好きな一家のようだ。

 

この「サイバーバード協奏曲」にも言えることだが、ここ最近の僕の音楽的嗜好として、「ジャズとクラシックの折衷感のあるもの」に強く惹かれている気がする。

マリア・シュナイダー・オーケストラしかり、

挾間 美帆しかり、

この前取り上げた小田朋美(小田朋美「シャーマン狩り」 - 雨にぬれても)しかり。

また、ジャズをルーツとしたポップスの範疇で語られることが多いけれど、北園みなみの音楽にも「ジャズとクラシックの折衷感」のような響きを感じているように思う。

(実際に北園さんは武満徹を意識していたり、(おそらくアナリーゼのために)「春の祭典」のスコアが欲しいとツイートしており、クラシックにも関心を寄せている)

そして、何年か前からニコライ・カプースチンの音楽が好きだったこともふと思い出した。

 

興味を持った音楽もあれば、同時に興味を失った音楽もあり、少しずつスライドしていく自分の音楽の好みに、楽しさと寂しさを感じている毎日だ。

 

(おまけ)

吉松作品でよく指揮を執っている人のインタビュー(藤岡幸夫さんが語る吉松隆の魅力

)や本人が日々更新している吉松隆ホームページも面白い。

 

小田朋美「シャーマン狩り」

このアルバムは2013年の年末にリリースされたのだけど、それから今に至るまで全く飽きることなく、本当に数え切れないくらい聴いている。

今更ではあるけど、やはり僕にとって特別な作品だと感じたので、もっと沢山の人に聴いてもらいたいと思い、ブログに取り上げた。

とりあえず若干仰々しい語り口のアマゾンの内容紹介に目を通して貰えれば、ざっくりとした来歴などはわかるはず。

アルバムの内容について簡単に触れると、どの曲もピアノ+ドラムのデュオ、ピアノ+弦楽四重奏、もしくはピアノ+ドラム+弦楽器のようなベースレスの編成でありながら、音の薄さに対する物足りなさを感じることもなく、むしろその特異な編成が強烈な個性のように感じられるくらい才気走っている。

僕が10年代上半期ベストを考えるとすると、その時の気分によって色々と順位は変わるのだろうけど、多分どういう気分のときでも常にベスト5には入ると思う。

小田朋美個人については、「どんな演奏にも対応出来るので、(小田朋美の加入が)dCprGの音楽性に影響を与えた」「(プロデューサーとして参加した本作について)手を加えるところがなかったので、レコーディングには一切参加していない」と菊地成孔に言わせるピアノの演奏と作編曲能力。本作における唯一の本人作詞曲である「Mのロマンス」からも垣間見える詩情。歌心がありしっかりと聴かせるボーカル。更には「ステージ上の振る舞いが可愛い」と専らの評判。まさに完璧超人である。

==================インタビュー==================

小田朋美『シャーマン狩り - Go Gunning For Shaman』 インタビュー - JJazz.Net blog

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(これらの曲にアイマスの映像をつけてアップした人の意図は理解出来ないし、違法アップロードを使っての紹介は若干気がひけるが、聴いてみてほしい気持ちが先に立つので失礼ながらもリンクを貼らせていただく。)

 

Love the world - YouTube

Perfumeのカバー

風が吹き風が吹き - YouTube

宮沢賢治(名誉童貞)の詞に曲をつけたもの

鏡の中の十月 - YouTube

YMOがプロデュースした小池玉緒の同名曲のカバー

Angelic (SPANK HAPPYカバー) - YouTube

菊地成孔がやっていたSPANK HAPPYのカバー

2014.12.27 OdaTOmomi LIVE @ JZBrat ダイジェスト動画 - YouTube

ライブ動画。この動画の中の曲だと「Love The World」「カム・ダウン・モーゼ」「雨よ降れ」がアルバム収録曲。

 

アルバム収録曲全9曲のうち、ライブ動画も含めると6曲が聴けるわけだが、残りの3曲も素晴らしいので気になった人は是非購入してみてほしい。

 

2015年上半期の気に入ったアルバム

「上半期ベスト」というには分母が小さすぎるので、簡単に現時点で気に入ったアルバムを扱うということで…。

・Kidsaredead - The Other Side Of Town

Lamp染谷さんのレーベルBotanical Houseの2作目です。

 

cero - Obscure Ride

 

・Lauren Desberg - Twenty First Century Problems

グレッチェン・パーラトの弟子筋らしいです。

 

Sufjan Stevens - Carrie & Lowell

 

・Soichi Terada Presents Sounds From The Far East

古い作品のコンピなので新譜といっていいのかわかりませんが、90年代のハウスの気持ちいいやつばかりが詰まってました。

 

・ウワノソラ'67 - Portrait in Rock 'n' Roll

直球のナイアガラオマージュ。自主制作ゆえに大手レコードショップなどの流通に乗っていないのは勿体ない。

 

・Kendrick Lamar - To Pimp A Butterfly

 

・Herbert - The Shakes

 

・Tuxedo - Tuxedo

 

dCprG - Franz Kafka's South Amerika ~フランツ・カフカ南アメリカ

 

 

私的年間ベストアルバム2014

今年一年のリスニングの傾向を総括すると、去年一昨年くらいから、改めてポップスの面白さを感じた(というより、知覚出来る面白さの幅が広がった)ことに端を発する意識の変化をまだ引きずっている一年であったように思う。
端的に言うと、以前よりもボーカル物を、もっと言うと日本の(広義における)ポップスを聴く機会が多かった。
その結果、今年聴けた海外の新しい音楽については、フィジカルでリリースされた話題作ばかりになってしまったように思う。元々そこまで新譜を沢山聴く方ではないので尚更…。
そのため、目を通してくださった方に有意義な発見を与えられるとは思えないけれど、なんとなく僕の今年の気分を感じ取ってもらえるランキングにはなるのかなと思う。

雑文ではありましたが、以下本題に入らせていただきます。

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30. 原田知世 / noon moon

ボサノヴァ・デュオnaomi & goro のギタリスト、伊藤ゴローとの共作。
この辺はもうYMO人脈の繋がりの強さを感じる組み合わせ。
関係ないけど、これはめちゃくちゃいい画像。
「実は昔、細野さんが知世ちゃんのこと好きだったんだよね」みたいな話があったなら聞いてみたいものだ。
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内容はというと、本当に肩の力が抜けてるというか、日常のあらゆるシーンにそっと寄り添ってくれるような音楽。晴れた休日のちょっと早起きした朝とかに聴いたら最高じゃないだろうか?
まぁ休日は大体お昼近くまで寝てしまうのだが(いらない情報)
何はともあれ、原田知世さんがいい歳の取り方をしてるのを窺い知れる気がする作品。

29. 丈青 / I See You While Playing The Piano

SOIL&"PIMP"SESSIONS及び、派生ユニットのJ.A.Mのピアニストである丈青のソロピアノアルバム。
(良くも悪くも非常に荒っぽい)SOIL&"PIMP"SESSIONSというグループのピアニストに繊細な表現力が求められるソロピアノアルバムが作れるのか?という気もしていたが、菊地成孔が「埋蔵してる実力がすごいあって、ものすごく弾けるんだけど、やってる音楽的には、どっちかって言うと抑えて、かっこよくやってるイメージだった」と評しているように(そうでなければDCPRGなんていうグループに起用しない)、本作を聴くときちんとピアニスト丈青としての能力が遺憾なく発揮しているのが感じられた。
「(ピアノを弾く際にも)歌心を大事にしている」とインタビューで語っていた通り、非常にメロディアスで饒舌なソロピアノになっているように思う。

28. 古川麦 / FAR/CLOSE

ceroのサポートなどで参加している古川麦のソロアルバム。
ボサノヴァ含むブラジル音楽やジャズ、クラシッ クなどの影響を受けているとのことで、全体通して聴いてみるとブラジル音楽色が一番強く出ているように感じる。様々な管楽器、弦楽器を扱っているが、変に捻くれたりしておらず素直にポップスしているのがとてもいい。
それにしても、こういう作品がひょこっと出てきてしまうあたりに今のインディーシーンの醸成を感じざるを得ない。

27. Aphex Twin / SYRO

一曲目を再生した瞬間に「あ、Aphex Twin だ」という安心感(?)があったのだけど、13年の沈黙を経てもなお、誰にも脅かされない個性やオリジナリティを感じさせるというの凄いことなんだろうな、と思う。

26. コトリンゴ / birdcore!

新生KIRINJIにも加入してライブをこなし、自身のピアノ弾き語りツアーでも全国津々浦々を回るなど精力的に活動しているコトリンゴさん。(金沢でCDにサインを戴きました。)
より室内楽的に空気が増したように感じられる今作。
36歳(!?)という年齢を感じさせないふんわりとした世界観と丁寧に作りこまれたアレンジに耳を奪われる。

25. 伊集院 幸希 / 月曜日と金曜日 〜Sugar Hi Junnie〜

伊集院幸希 featuring RUMI 「彼女は金曜日」

こうやって年間ベストを考えていると、改めて「いいミュージシャンは、多くの場合いいリスナーなのだろう」ということが見えてくる。この”いいリスナー”にも、「あらゆるタイプの音楽の貪欲に聴くタイプ」と「特定の音楽に異常な愛着を示すタイプ」の二通りがあるように思う。
伊集院幸希という女性のパーソナルな部分についてはそれほどよく知らないが、インタビューを読む限り、どちらかというと後者のタイプのリスナーなのかな?という印象を受けた。
とにかく”ソウルミュージック”という揺るぎない土台が彼女の中にあるように思う。
それが、アウトプットとして出てくる音楽や表現に強く感じられることが非常に好ましい。

24. Lone / Reality Testing

Lone - "2 is 8"

今年はクラブミュージック全般(特に無機質な印象を受けるもの)に気持ちがあまり乗らなかったのだけど、本作のようなカラフルでメロディックでドリーミーなものは今の気分にもしっくりくることがわかった。クラブミュージックにおいて、こういった”軽快さ”と”ダサさ”はコインの表裏であることも多いが、本作はサウンドのクオリティでもって、表の面のみが際立って見えるように思う。

23. Taylor Mcferrin / Early Riser

Taylor McFerrin - Florasia

今年、「Jazz The New Chapter」、「Jazz The New Chapter2」というディスクガイドが2冊発売された。簡単に言うと、ヒップホップやエレクトロニックミュージック以降に生まれた近年のジャズについての一つの視点を提示しているものになる。僕も買ってはいたのだが、いつもの通り(買って満足してしまい)読まずに放置していたので、今になってパラパラと見ている。
正直に言って、この辺に関してはまだまだ非常に疎いのだが、「えっ、これも含めるの?」といった意外な選盤もあり、「こういう捉え方もあるのね」ってな感じで少しずつ聴いていこうかと思っている。
で、本作であるが、その本で大きくページを割いて紹介されているアーティストである。
成る程、確かにヒップホップ以降を感じさせるビート感覚があって良いのだけど、Flying Lotusほど先に進んでいるという印象はなく、あくまで僕と同世代の人間が一つずつ歳を重ねながらその時々のかっこいい音楽を聴いた上でジャズにコミットした結果として、ごく自然な成り行きで生まれる音楽にように思え、むしろ親近感のようなものを覚える作品だなという印象が強い。

22. Febb / The Season

Febb - Time 2 Fuck Up

同じくFla$hBackSのjjjソロアルバム、Kid FresinoをフィーチャーしたArμ-2と聴いた中でどれを選ぼうとしたら、今はこれ。
それにしても、若い世代がこれだけエネルギッシュに活動してるのはなんとも心強い。
Fla$hBackSのそれぞれのメンバーがソロアルバムを出したことだし、2015年にはFla$hBackSの2ndもあるのだろうか?2015年の楽しみの一つ。

21. くるり / THE PIER

くるり - Liberty&Gravity

くるりは僕が思春期の頃から活動しているバンドではあるのだが、僕個人としてはそこまで深い思い入れも愛着もなくここまで来たというのが正直なところである。そのため、「ワルツを踊れ」以降の作品については聴いてもいない。そんな僕にとって、くるりといえばどうしても初期の曲の印象が強く、(今更そんな時期との比較をすることに意味があるのかはわからないが、)いい意味でも悪い意味でも在った当時の青臭さが抜け、アーティストとしての成熟が感じられる作品のように思った。

20. rinbjo / 戒厳令

Rinbjö - 魚になるまで

菊地成孔プロデュースによる、女優菊地凛子のアルバム。
このアルバムについては年末リリースなこともあり、自分の中で消化しきれていない。
どうやら、「演じることに飽き、映画で肉体を曝け出した菊地凛子が、音楽を通して精神を曝け出すこと」を目的に作られたようである。そのため、リリックや語りの文章のクレジットが「N/K」になっていても、そこには菊地凛子の意思が反映されているものと思う。
そういう意味では、”売れることを度外視”し、菊地凛子が自身の暗部も含めた内面の発露のためだけに作った、もの凄く私的であり、歪さと危うさを孕んだアルバムだと感じた。
そして、だからこその表現の強さがある。

19. Pharrell Williams / Girl

Pharrell Williams - Happy

僻み根性に溢れた世の中の非モテ男には、モテている男を「モテていることが許せない男」と「モテていることを許せる男」に分けて見る習性が備わっているという。ご多分に漏れず僕にもそれがばっちり備わっているわけだが、僕の見立てでいうと、このファレル・ウィリアムスという男は後者だ。「もういっその事思う存分モテてくれ」ってなもんである。
以上を本作の感想に代えさせていただく。

18. OGRE YOU ASSHOLE / ペーパークラフト

OGRE YOU ASSHOLE - ムダがないって素晴らしい

インタビューにて本人たちが「ミニマルメロウ」という言葉を使っていたが、その言葉の通りの音楽に仕上がっており、やりたい事に対して”ムダがないって素晴らしい”なと思うアルバム。
一貫して低い温度のサウンドでありながらも、そこにしっかりと情感が乗っている曲が並んでいる印象だった。
このバンドの名前はちらちら目にしていたものの、作品をきちんと通しで聴くのは初めてだった。過去の作品に対しても凄く興味が湧いている。

17. Arca / Xen

Arca - Thievery

僕の取るに足らない音楽体験の上で聴いたArcaの音像には、確かに新鮮さのような物が存在するように感じられるのだが、僕がこのランキングに入れた理由は、どちらかというとそれぞれの曲から感じられる”詩情”のようなものに惹かれたためだと思う。
(センスの有無が介在するとはいえ)「サウンド的な追求」に関しては、音楽を構成する要素の中だと比較的年齢を重ねてからでも可能な部類の物なのかな?と僕個人としては感じているが、音楽全体で描かれる”世界”については、長い間かけて蓄積された人生の表出であり、最も重要なことのように思う。
そういう意味で、Xenには彼の描きたい世界がはっきりと感じられ、その世界がとてもフェティッシュな刺激に満ちていたため、選出した。

16. 牛尾憲輔 / アニメ「ピンポン」オリジナルサウンドトラック

BOXに入っていたComplete Edition(CD2枚組)ではなく、配信(CD1枚目相当)のみを聴いた感想。
このサントラで特に気に入っている曲が2曲(正確には3曲)ある。
一つは「Ping Pong Phase」(と、少し長めの尺の「Ping Pong Phase2」)。
これはアニメの作中でかかった瞬間に心を掴まれた曲だった。
簡単に説明すると、卓球のラリーの音をサンプリングしたライヒ風ミニマル、といったところ。
楽曲のサウンドや構造から、そして曲名に「Phase」と付いていることからもライヒの影響が伺える。
卓球の音をサンプリングする、という発想自体に特別な驚きはなかったのだが、単調なラリーの音から始まり、徐々に複雑さを増していく素晴らしい曲を作られた牛尾氏の手腕には賛辞を送りたい。
もう一つはオオルタイチ氏との共作である「Peco(ペコのテーマ)」
記憶にある限りだと、この曲がもっとも印象深く使われていたのは「対風間戦」だと思う。
主人公のペコという天才が試合の中でまた一つ覚醒するという作中でもとても重要な場面。
ペコの肉体の躍動は湯浅政明という天才アニメ監督によって、画として十二分に描かれていたが、精神の躍動と解放についてはこの楽曲がとても大きな役目を担っていたように思う。
余談になるがアニメ「ピンポン」自体も本当に素晴らしい作品だったので、是非観て欲しい。

15. KIRINJI / 11

KIRINJI - 進水式

今年一年を通じて、キリンジ(及びKIRINJI)のファンが中々に面倒臭いという事を知り、思った以上に堀込兄弟の両方(もしくはどちらか)を愛しているのだということを理解した。
迂闊なことをツイートしようものなら、エゴサで常に監視している非公式情報アカウントがRTを飛ばし、それに多くのアカウントで反応するという世界が出来上がっている。
恐ろしいので一言だけ。
キリンジとはちょっと違うけど、KIRINJIもいい」

14. Todd Terje / It's Album Time

TODD TERJE - Delorean Dynamite

LindstromやPrins Thomasに続く北欧産ニュー・ディスコの3番手としての地位を確立したように思えるTodd Terjeだが、個人的には先の二人の作品よりもTodd Terjeの作品のほうがしっくりくる…気がする。
「遊びがある」「ユーモアがある」、いろいろ言い様はあるが単純に聴いていて飽きがこない。
聴き終えると後味爽快な高揚感が残るアルバム。

13. 一十三十一 / PACIFIC HIGH / ALEUTIAN LOW

一十三十一『Pacific High / Aleutian Low』試聴ダイジェスト

全7曲のミニアルバム。前半3曲が夏曲、後半4曲が冬曲。
いつも通りのナイス・アーバン(アホっぽいですが、これ以上シックリくる表現が見つからない)。個人的には2014年1月に出たSnowbank Social Clubよりもこちらの方が好き。
10月に初めて一十三十一さんのライブを観たのだが、「一緒にアーバンしようね(ハート」というMCに心を撃ち抜かれた童貞は僕だけじゃないはず。
助手席に女の子を乗せ、一十三十一さんの曲を聴きながらドライブをすることを何度夢想したことだろう…。女の子を助手席に乗せるということは、同時に”僕の若干顎がない横顔を女の子にじっくり見られる”というシリアスな問題も発生するのだが、その心配をする必要は当分なさそう。
「CDを聴くだけで好きな女の子とアーバン出来る」その可能性を残していくれているだけで、一十三十一さんは偉大だ。

12. JINTANA & EMERALDS / DESTINY

JINTANA & EMERALDS - "Emerald Lovers"

このアルバムが想起させる風景というのは、この写真そのものであって、ハッキリ言うとそれ以上の説明がいらないように思う。

というか、「スウィート」だの「メロウ」だの「トロピカル」だのといった、僕でも簡単に思いつくような言葉は全部商品解説に書いてあるので敢えて書くまでもないのである。
兎に角、年中雨がちで、荒れ狂っている日本海側で聴く音楽ではない。(石川県民なりの自虐)

11. Moodymann / Moodymann

Moodymann - Desire (feat. José James)

過去に存在したあらゆるブラックミュージックの良さを凝縮した豆から作った極上のコーヒー、といった印象。本作においてもハウスを軸足に様々なブラックミュージックへとアクセスしている。アルバムを通して腰にくるグルーヴが担保されているが、なおかつニュアンスの音楽でもあるため、リスニングにおいても退屈することなく楽しむことが出来る。
各曲の繋ぎとして頻繁に傑作「Freeki Muthafucka(23曲目に収録)」のフレーズを使用するという焦らしが行われ、23曲目に辿り着いた時「遂にフルで聴ける!」となる悦びを誰かと共有したい。

10. 渡邊琢磨 / Ansiktet

視聴サイト

20名ほどの演奏家を個別にスタジオに招き、それぞれから音楽の断片を採集。その後、再構築して渡邊氏の頭の中にあるオーケストレーションを組み立てた作品とのこと。チェリストの徳澤青弦氏には「本当のオーケストラはこういう鳴り方をしない」と言われたそうだが、もちろんそういう反応も想定した上での作品であろう。
演奏家の方たちにとっては最終的な音楽の完成系が見えないままに、渡邊氏の要求に応えなければいけない環境だったため、ストレスフルなお仕事だったらしい。
メランコリックな映画音楽を思わせる曲が並んでいる。

9. Flying Lotus / You're Dead!

Flying Lotus - Never Catch Me ft. Kendrick Lamar

実はこれを書くタイミングで、改めてCosmogrammaを聴き返してみると「……(数年前に聴いた時の10倍くらいに)めちゃくちゃカッコイイやないか…」となった。
こういう自分の耳の変化みたいなものが嬉しくて音楽を聴き続けている部分は間違いなくあるなと思う。
本作は、フライング・ロータスがLAの人脈をフル活用し、今まで以上にジャズに対して真正面から向き合った作品になっている。彼がジャズと向き合うということは、偉大な叔父を持つ自らの血と向き合うことでもあるので非常に意義深いことに思える。
内容については、プレイヤーの演奏や個性をしっかり活かしたことで、ジャズの文脈に歩み寄っているように思えるが、フライング・ロータス特有の現代的な音像はそのまま踏襲されており、その両方が混ざり合うことでいいケミストリーが起こっているなという印象。
新世代のジャズにおける一つの指標のような作品として扱われる気がする。

8. 坂本慎太郎 / ナマで踊ろう

坂本慎太郎 - スーパーカルト誕生

どう楽観的に見ても今後数十年良くなる未来が見えない日本という国に対して、坂本慎太郎は何を思っているのだろう。(震災と一緒に語れることも多かった)salyu×salyuの「続きを」では日常の当たり前の出来事や景色に対する喜びの詞を提供しているし、前作「幻とのつきあい方」は内省的ではあったものの、そこまでシリアスな悲観があったように感じなかったが、このアルバムには世の中というものに対する冷めた絶望が通底しているように思える。
単純に前作から震災を挟んだり、社会情勢などで気持ちの変化があったのかもしれないが、そういった絶望と希望の間で揺らいでる感情が近年の坂本慎太郎の作品の根っこにあるように思う。
余談だが、「(小学生の時)リレー選手でクラスの人気者だったゆら帝の坂本君」というツイートが回ってきた時は思わず笑ってしまった。

7. FKA Twigs / LP1

FKA twigs - Two Weeks

去年、Arcaとの共同プロデュースである「EP2」が話題をさらったとのことだが、FKA Twigs、Arca共に今年に入ってから存在を認識した遅耳な僕である。
そんな僕が偉そうに言うのもなんだが、「先進的な音楽でありつつ多くの人の支持を集め、アイコンとしての価値もある」そんな彼女を指して、”新世代のビョーク”と評する向きもあるようで、それも理解出来る。いや、ビョークの次作をArcaが単独プロデュースすることが決まった2014年現在においては、FKA Twigsが少し先を行っていると言えるのかもしれない。
まぁ、そういったスパンでの”早い遅い”にはどれだけの価値があるかは不明だけど、とにかくマスに向かってこういった音楽をアピール出来るだけの存在感を持った人物がまた一人登場したことは素直に喜ぶべきことだろう。

6. 森は生きている / グッド・ナイト

森は生きている - 煙夜の夢 a,香水壜と少女 b,空虚な肖像画 c,煙夜の夢(夜が固まる前)

前作の1stアルバム「森は生きている」が大きな歓迎を持って迎えられた一方で、その反応に対する反発のような感想もネットに散見されていたように思う、バンド”森は生きている”。
前作の時点で雑多な音楽を経由して生まれた音楽であることは十二分に感じられたが、1stアルバム特有のフレッシュさが良くも悪くも若干の隙になっていたのかもしれない。
そして、本作、2ndアルバムであるが、サウンド的には基本的に1stアルバムの延長上にある。然しながら(若干のポップさの犠牲とともに)表現の深度が格段に深まっており、もはや「◯◯のフォロワー」的な言及の仕方、否定的な見方を許さないところまで来ているように感じられる。
メンバーそれぞれについてそれほど知っているわけではないのだけれど、ギターの岡田拓郎さんの音楽オタクぶりには相当な物が感じられ(それもこの世代の音楽好きな人たちのディグ傾向とは違う聴き方をされていそう…)、23歳という年齢でありながら、他の歳上メンバーを差し置いて最終的なサウンドの決定権を握っているというのだから天晴れではないだろうか。
ともあれ、これだけの表現を獲得するバンドのメンバーが、それぞれ長い音楽活動をやってきた上で集まったわけではなく、若い段階で上手く集まったのは驚きだし、今後あるかもしれないメンバーのソロ作も含め、本当に楽しみな存在。機会があれば是非ライブにも行ってみたい。

5. Eno・Hyde / Someday World

Eno • Hyde - The Satellites

今年出たブライアン・イーノとカール・ハイドの共作2作の1作目。
Pitchfork及びその他メディアでは本作よりも2作目の「HIGH LIFE」に評価が集まっているようだが、個人的にはこちらのほうが今の気分。
基本的にボーカル物でポップスの体裁を取っており、決して敷居の高い音楽ではないが、かといって軽く聴き流すような代物では決してなく、二人の今作に対する意欲と充実した制作を感じさせる。
サウンド面において何かしらの新鮮さがあるかというと決してそういったことはないが、どの曲にも二人の音楽的基礎体力のようなものが感じられて飽きがこないし、アルバムトータルでも決して退屈することはない。
「サウンドにおける鮮度」は確かに音楽において刺激的な要素の一つではあるだろうが、その鮮度は多くの場合時間の経過と共に失われ、最後に問われるのは結局”音楽的な強度”なのであろう。
この作品にはそれがある。酷く抽象的だがそう思わせる作品だった。

4. Lamp / ゆめ

Lamp - シンフォニー
Lamp - さち子

1曲目「シンフォニー」のイントロから名盤の予感を嗅ぎ取ることは恐らくそう難しいことではないであろうLampの7枚目。全体を通して素晴らしいが、北園みなみがアレンジで参加した「A都市の秋」、アルバムの最後を〆る「さち子」なども出色の出来だろうか。
まず、Lampというグループが(おそらくセールスにさほど恵まれないながらも)着実に作品を作り続けてきた事は尊敬に値する。それだけに、(実質リーダーの)染谷さんがレーベルBotanical Houseを立ち上げ、自身の作品の普及と新たなアーティストの発掘に乗り出すというニュースは素直に喜ぶべきものと受け取った。
過去の様々なポップス(ミナス、MPBなどのブラジル音楽を含む)の遺産を消化、昇華し、Lampほどの完成度で作り上げるグループは日本にあまりないのでは?とも感じられるが、Lamp周辺にはやはり同様の音楽を通過してきた人たちが集まってきているように思われる。
Botanical Houseのスタートと共に、そこからシーンと呼べるような潮流が日本に生まれると面白いと思うので、今後の活動に期待したい。
余談だが、日常的にインターネットに張り付いていた結果、廃盤になっているLampの2ndアルバム「恋人へ」の数量限定の再発を拾うことが出来たことは今年の嬉しかった出来事の一つだった。

3. D'Angelo & The Vanguard / Black Messiah

D'Angelo and The Vanguard - Really Love

約14年ぶりのリリースとなった本作。
前作リリース時、僕はまだ14歳だったし、リアルタイムで聴いた人達の興奮については想像するしかないが、本作の突然のアナウンスで起こったTLの盛り上がりと音楽好き、ミュージシャンのリアクションを見ると、いかにディアンジェロというアーティストが愛されているのかが容易に理解出来るようだった。
そして内容については、今年出たMoodymannの新譜がコーヒーだとするならば、本作はエスプレッソという印象を受けるほど、むせ返るような黒さとセクシーさにクラクラする物だった。
もうちょっと聴き込まないとはっきりとしたことは言えないが、今の気分だとBrown Sugar、Voodooより好きだと思えるくらい好き。つまり、最高。

2. 菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール / 戦前と戦後

菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール - 退行(映像については謎…)

この先「戦後」がまた「戦中」になってもおかしくない、そんな空気すら漂う昨今、それでも人は人を想うし、一人では生きられない。そんなことを考えながら、気がつくといつも手が伸びていたこのアルバム。
「Woman 〜映画”Wの悲劇より”」は薬師丸ひろ子のカバーで、オリジナル自体、作詞松本隆、作曲呉田軽穂松任谷由実)、編曲松任谷正隆という固い布陣の名曲だということを初めて知ったわけだが、美しいメロディーラインはそのままに、完全にこのアルバムの音に落とし込んでいるN/K a.k.a 菊地成孔の手腕は流石というところだろうか。
こちらも原曲自体が素晴らしいフランク・オーシャンのカバー「スーパー・リッチ・キッズ」だけれど、エレガンスさが増して、アメリカのキッズっぽくなくなってるのが最高。
「エロス + 虐殺」は比較的ミニマルなループを奏でる曲だが、出だし、中盤でストリングスが暴れまくり容赦なくリスナーにストレスをかけてくる。そこを抜けた後に聴こえるループは開放感と喜びに満ちて感じられるから不思議なものだ。やはり音楽にも日常にも適度なストレスというものが必要なのだろう(緊張感のない日常を送る自らへの戒め)
菊地成孔の若干安定感のない、でも魅力的で官能的な”大人の唄”が聴きたい人は是非。

1. 北園みなみ / Promenade

"promenade" digest / 北園みなみ

キリンジ冨田恵一の役割を一人で出来てしまう才能」という”ある人には強く訴求し、ある人には敵対心を植え付ける売り文句”をつけられたのは幸か不幸か…。そんなアーティストの1stミニアルバム。
北園みなみのyoutubeのアカウントをフォローし、”お気に入り”に入れている動画をチェックするというストーカー性を発揮する程、今僕が最も期待を寄せており、また最も冷静に見ることの出来ないアーティストでもある。「偏愛している」と言ってもいいかもしれない。北園みなみというフィルターを通して出てくるものが兎に角肌に合うのだ。
僕が個人的に北園みなみについて思うことは、あらゆる音楽を自分の血肉にしていく貪欲さと知性において、同世代のミュージシャンの中で頭一つ抜けた存在なのだろう、ということである。
各所でのアレンジ仕事などで、ともすれば職人気質な作家に思われている節もある(ような無いような感じだ)が、少なくとも僕はシンガーソングライターとしてのトータルな才能の燦めきに惹かれているように思う。
SoundCloudにアップされた「カザミドリ」という曲の歌詞を引用したい。
「通り過ぎるひとりひとりは 自分だけの言葉を見つけようと夢を見ている」
音楽家にとっての「言葉」が「音楽」と同義であるならば、彼もまた、様々な音楽を消化し、自分だけの言葉を見つけようとしているのだろう。
インタビューで「今は、なんでもやってみようかなと。」と語る彼の向かう先に興味は尽きない。きっとどんな音楽にでもなれるだろう。