私的年間ベストアルバム2017
【総括】
自分の好きな音楽の傾向としては、去年からの流れでこのリストに挙がるジャズやラテンの数が増え、そのぶんヒップホップやR&Bの名前が自然と挙がってこなかった。今年はどうやらそういう気分だったようだ。各音楽メディアの年間ベスト上位にヒップホップやR&Bがバンバン入っていて、時代のムードと自分との乖離がすこし心配にもなるが、まぁ音楽を楽しめてるなら別にいいかってことで無理くり納得させている。
ブログに年間ベストを書き始めて今年で4年目。自分が飽き性なこともあって、わずか4年の間に自分の聴く音楽の傾向もかなり変わってきていることがわかるし、今から更に5年後10年後に過去の自分を振り返るための記録として、毎年この面倒くさい作業を続けていけたらいいかなとは思っている。
一応去年一昨年のリンクを。
前置きは以上。
見てくれた人にとって、ほんの少しでも参考になったなら幸いだ。
25. Julian Lage & Chris Eldridge / Mount Royal
ジャズギタリストのジュリアン・ラージと、パンチ・ブラザーズのメンバーでギタリストのクリス・エルドリッジによるギターデュオアルバム。二人の卓越したギターで安心して聴くことが出来るアメリカーナ。
Julian Lage & Chris Eldridge - Bone Collector - YouTube
24. けもの / めたもるシティ
シンガーソングライター青羊(あめ)のソロプロジェクト、けもの の2ndアルバム。
菊地成孔のレーベル、TABOOよりリリース。
日常にも町にもなんの変化も感じられない生活を送る田舎者の僕にとって、2020年に向けて開発が進む東京はまさしく”めたもるシティ”のように思われる。
3曲目の「PEACH」と7曲目「tO→Kio」がとくにお気に入り。
23. Jovino Santos Neto And André Mehmari / Guris
アンドレ・メマーリとジョヴィーノ・サントス・ネトの連名作で、エルメート・パスコアル80歳の誕生日を祝うパスコアル・オマージュの本作。それぞれが様々な楽器を持ち替えて演奏している。
御大パスコアル本人もスペシャルゲストで3曲ほど参加している。使用楽器はもちろん「TEAKETTLE=ヤカン」だ。
22. 小田朋美 / グッバイブルー
2013年リリースの「シャーマン狩り」以来、4年ぶりとなる小田朋美の新作。
「シャーマン狩り」は僕にとって2013年のベスト級の作品であり、メーカーインフォ?に書かれた"才媛"という言葉がまったく嘘偽りないことを聴いた誰しもに痛感させる内容だったと思う。
そんな小田朋美の置かれている状況もここ4年の間に大きく変わっているようで、DC/PRGへの加入、ceroのサポートメンバーとしての活動、今引っ張りだこのドラマー石若駿らと結成したバンドCRCK/LCKSでの活動など、日本の音楽界の隠れた重要人物のようになっている。
さて、本作はピアノの弾き語りもしくはインスト(とチェロが加わる曲もある)で構成されている。前作の「シャーマン狩り」と比べると、ピアノが遠くのほうで鳴っているように録音やミックスがなされているとうだ。その分空間を感じられ、ボーカルが立って聴こえてくる。本作では、より歌を聴かせたいという意図があったのかもしれない。ちなみに一曲目の「あおい風」が一番好き。
余談だが、CRCK/LCKSの新譜「Lighter」収録の「傀儡」という曲は、曲中で小田さんが「好き」と50回くらい歌ってくれるので小田さんフリークにはご褒美だった。
21. Vijay Iyer Sextet / Far From Over
今年の音楽界の大きな出来事として、「ECM(及びECM New Series)のサブスク参入」が挙げられるかと思う。ジャズ(とクラシック、現代音楽)の最重要レーベルでありながら、これまで頑なにサブスクに参入してこなかったECMも「まずは聴いてもらうことが大事」という判断の元、保有するカタログの大部分を公開した。これによってECMがこれまで積み上げてきた物凄い質と量のお宝に容易にアクセス出来るようになったわけで、これまで「サブスクにはECMがないからね〜(だからまだCDを買わないと)」と言っていたジャズファン各位も、本当に音楽にお金を投じなくてもなんとかなる時代に突入した感がある。
さて、そんなわけでヴィジェイ・アイヤーの新作もサブスクで聴けてしまうのだ。
一聴するとECMらしくないハードな印象を受けるが、先鋭的でインテリ感溢れるところが気に入っている。
20. 岡田拓郎 / ノスタルジア
2年前に解散したバンド、「森は生きている」の中心人物だった岡田拓郎のソロアルバム。
2017年現在のUSインディーシーンの現状はというと、人によって見方は違うかもしれないがひとまず成熟したというべきだろうか。では、日本の若手ミュージシャンの中で最も00年代から10年代にかけてのUSインディーを総括し、消化し、ただ表層をなぞるのでなく自身の音楽として昇華しようと試みているのは誰かというと、この人になるのではないだろうか。
Okada Takuro - Amorphae (Feat. Mifune Masaya) - YouTube
19. Thundercat / Drunk
フライング・ロータスやカマシ・ワシントンの作品、ケンドリック・ラマーの「To Pimp a Butterfly」への参加など、西海岸のかっこいい音楽のクレジットに頻繁に名前があがっていたサンダーキャットことステファン・ブルーナーの新作。
フュージョン、AOR、メロウなSOUL、シンセポップ風味など、様々な音楽が2〜3分単位で矢継ぎ早に移り変わっていくため、アルバム全体を一言で説明するのは困難だ。しかし、トータルとして聴いたときに不思議と散漫な印象がなく、まとまって感じられるのが本作の美点ではないかと個人的に思う。
Thundercat - 'Show You The Way (feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)' (Official Video) - YouTube
Thundercat - 'Tokyo' (Official Video) - YouTube
18. Dominic Miller / Silent Light
長年スティングのサポートギタリストを務めているドミニク・ミラーのECMから出たソロ作品。
ECMからリリースされる音楽も様々だが、個人的な印象としてはリリースされる作品の多くが音の細部を味わうべき音楽であり、聴き手に集中力や緊張感を要求するものであるように感じている。
一部ベースやパーカッションが入る曲があるが、ほとんどドミニク・ミラーのギターが中心となっている本作。やはりECMなだけあって本当にギターの音が美しく録音されているのだが、(いい意味で)ながら聴きや流し聴きをしていても楽しめるような穏やかで優しい曲が並んでいる。心がざわざわする深夜などにヘッドホンで聴いていると本当に心が休まる思いがする。
Dominic Miller – Water (from the album Silent Light) - YouTube
17. 柴田聡子 / 愛の休日
シンガーソングライターであり詩人の柴田聡子の4枚目のアルバム。
岸田繁プロデュース曲「遊んで暮らして」「ゆべし先輩」、山本精一プロデュース曲「リスが来た」を含む、全13曲収録。
柴田聡子の音楽の良さについて問われた時、やはり「詞」に依るところが大きいということに異論はさほどないのではないかと思う。もちろんいいメロディーがあってこその詞であることは間違いないのだが、日常の中に生まれる機微や屈託を柔らかな眼差しで拾い上げたような詞こそがこの人の音楽をオリジナルなものにしていると感じる。
その他の曲も素敵なものばかりだが、とりわけわずか2分40秒の中に素晴らしいポップスに宿る煌めきと感情の揺らぎが凝縮している「後悔」という曲が大好きだ。
柴田聡子「後悔」(Official Video ) - YouTube
16. Sam Amidon / The Following Mountain
サム・アミドンはフォーク・ミュージシャンの両親のもとで幼少の頃からトラディショナルな音楽の教育を受けていたおり、そういった音楽に新たな解釈やスタイルを加えて独自なものとして蘇らせてきた。そのサム・アミドンのノンサッチからの3作目で、全て本人のオリジナル楽曲であり、サム・アミドンにとって新しい試みである。
ということだそうだ。
知ったかぶりをしても仕方がないので白状するが、このミュージシャンについてはこの作品で初めて知ったので、過去作なども聴いていない。
そんなわけで大したことは何も言えないのだが、フォーキーでありつつも音響的な拘りが強く感じられ、トラディショナルとモダンの折衷具合が見事だと感じた。
Sam Amidon - Juma Mountain - YouTube
コーネリアスの「SENSUOUS」以来、11年ぶりとなるオリジナルアルバム。
先行配信された一曲目の「あなたがいるなら」は僕個人にとってとても大切な、2017年を彩ってくれた一曲として今後も記憶されていくだろうと思う。(個別に書いたブログ記事はこちら(「あなたがいるなら」)
さて、本作の特徴としては、やはり小山田圭吾本人の歌モノ回帰であったろうと思う。
インタビューで「しばらく自分が歌うことをやってこなかった(ため本作では歌うことにした)」と語っていた小山田圭吾だが、「Point」「SENSUOUS」以降のコーネリアスのサウンドの上に歌を乗せる試みとして、やはりSalyu×Salyuなどのプロジェクトの中でかなりの実験が行われ、手応えを感じていたのではないかと思う。もちろん単純にボーカリストとしてみたとき、小山田圭吾はSalyuほど歌が達者ではないのだろうが、自身のサウンドに歌(と言葉)をはめ込むセンスは本作でも十二分に感じられる。小山田圭吾の歌詞に対する考え方は「音楽とことば」という本で詳しく語られており、とても面白く読んだのでおすすめしたい。
本作に限らずだが、坂本慎太郎が詞を提供したコーネリアスの歌モノの魅力は本当にすごいものがあり、今後もぜひ継続して聴かせてほしいところだ。
余談だが、STUDIO COASTでのライブはとても素晴らしかった。
Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here" - YouTube
Cornelius - 『いつか / どこか』" Sometime / Someplace " - YouTube
14. ものんくる / 世界はここにしかないって上手に言って
菊地成孔のレーベルTABOOからリリースされた ものんくる の3rdアルバム。
本作より、角田隆太とボーカルの吉田沙良の2名体制となっており、角田隆太はものんくるでの活動に力を入れるためにCRCK/LCKSを脱退している。
ちなみに角田隆太の父親はリュート奏者のつのだたかしで、父方の伯父に「空手バカ一代」を描いた漫画家のつのだじろうが、父方の叔父に歌手でドラマーのつのだ☆ひろがいるとのこと。(どうでもいい情報)
さて、1stアルバムでは6〜9分、2ndアルバムも5〜6分とポップスとしては長めの曲が多かったものんくるだが、本作では菊地成孔から「曲を短く」という指示があり、3〜4分程度の曲が多くなっている。
加えて、サウンドや歌詞も前々作、前作と比較すると、自分たちの生活範囲や手の届く身近な世界、感情を詩情ゆたかに描いているように感じられ、日常のサウンドトラックとして馴染みやすくなっているように感じられる。
ものんくる / ここにしかないって言って 【MV】 - YouTube
13. Tigran Hamasyan / An Ancient Observer
アルメニア出身のピアニスト、ティグラン・ハマシアンの新作。Nonesuch Recordsからリリースした2枚目の作品で、声やドラム音、シンセなどが入っているが、ほとんどピアノソロといっていいような内容となっている。
ティグラン・ハマシアンの音楽について語られるとき、多くの場合アルメニアの伝統音楽が引き合い出される。本作も故郷のアルメニアでの何気ない生活からインスピレーションを得て制作されたとのこと。僕はそのあたりの音楽に全く明るくない上に、アルメニアという国の国民性、歴史、風土などについてもウィキペディアをさらっと読んだ程度にしか把握していないが、この音楽を聴いているとティグランの想像力で描かれたアルメニアを旅しているような気分になる。どことなく悲しみが根底あるような、しかし美しい国、そんな感じがする。実際のところは知りません。
Tigran Hamasyan - The Cave of Rebirth (Official Video) - YouTube
Tigran Hamasyan - Leninagone (Official Video) - YouTube
韓国のアーティスト、公衆道徳(すごい名前)による宅録作品で本国では2015年にリリースされているようだ。
Lampの染谷太陽さんの元に韓国のファンからこのCDが送られてきて、染谷さんがそれを気に入り、日本ではLampのレーベルBotanical Houseから今年リリースされたという流れだ。染谷さんが韓国のミュージシャンたちに公衆道徳のことを聞いてみたところ、みんな存在こそ知っていても顔や素性などはまったく知らず、本国盤のリリース元に問い合わせてようやく連絡が取れたというくらい謎の人物らしい。
内容はというと本人のメイン楽器がギターということもあって、ギターが各曲の中で大きな役割を果たしているのだが、その周りを微かな電子音やノイズ、コーラス、その他様々な楽器の音がコラージュのようの取り囲んでおり、曲自体もこちらの予想を裏切るような展開で進んでいくので、どことなく万華鏡を覗く時のような面白さがある。
ポップで、ストレンジで、無邪気で、アイディアに溢れていて、宅録オタクの音楽に対する情熱がつまっている、そんな作品に思える。
染谷さんによるインタビューもぜひ。
Botanical House — 公衆道徳 Interview (聞き手:Lamp / Botanical House 染谷大陽)...
11. Kamasi Washington / Harmony of Difference
自分でいうのもなんだが、世間的にみてそれなりに音楽が好きなほうであろう自分でも、3枚組のアルバム作品と真正面から向き合うには相当エネルギーが要る。音楽なら40分50分くらいのアルバムがちょうどいいし、映画も100分110分くらいできっちりまとまってるものが好きだし、漫画もせめて単行本10冊くらいでまとめてほしい。そんな人間だ。
カマシ・ワシントンの2015年リリースの前作「The Epic」は3枚組170分と凄まじいボリュームがあり、リリースされた年以降はあまりにヘヴィー過ぎて結局それほど聴かなかった。
本作は6曲計32分の組曲となっている。1〜5曲目で主題を提示し、それらの主題を使った6曲目、13分30秒とわりと長尺で壮大な「Truth」で〆られる。単純に各曲の主題が美しく、曲調にも緩急があって一本調子になっておらず、最後の「Truth」を聴き終えた時には何か大きな物語が完結したような感覚を覚える。たった32分で完結する、とても素晴らしくて内容の濃い映画を観たような感じだ。
一応最後の曲「Truth」のMVを貼るが、この作品に関しては特にアルバムを通して聴いてみてほしい。
Kamasi Washington - Truth - YouTube
10. Kart Rosenwinkel / CAIPI
ジャズギタリスト、カート・ローゼンウィンケルの新作。
出る出る詐欺を繰り返し、10年かけてようやく完成した本作はブラジル音楽に対する憧憬が素直に出た一作。曲によってはプレイヤーを招いているが、カート・ローゼンウィンケル本人が各種ギター、ベース、ピアノ、ドラム、パーカッション、シンセなどの大部分を演奏している。
本作のリリースにあたって行われた来日公演では、ペドロ・マルティンスやアントニオ・ロウレイロといったブラジルの若くて優秀なプレイヤーを招聘し、KURT ROSENWINKEL'S CAIPI BANDとして演奏している。
ミナス周辺の音楽にみられる浮遊感というか揺蕩うような印象もありつつ、技巧的なギターのフレーズが冴える一枚。
9. Fabian Almazan & Rhizome / Alcanza
アメリカで活動するピアニスト/作曲家、ファビアン・アルマザンのボーカル+ピアノトリオ(+ゲストでギターのカミラ・メサ)に弦楽四重奏を加えたプロジェクトでの新作。本作はCDのリリースの予定はなく、配信のみとのこと。
ファビアン・アルマザンは、キューバ生まれで10歳の時に両親とともアメリカに亡命し、若い頃はピアノを習うお金にも苦労したようだ。その後、マンハッタン音楽院に進み、ジャズピアノと管弦楽法を学んでいる。クラシックにも精通しており、昨今のラージアンサンブルと呼ばれる音楽ほど大きな編成ではないものの、コンポジション主義の音楽であるという点では近いものが感じられる。
本作は、間にピアノ、ベース、ドラムのソロパート的な曲をそれぞれ一曲ずつ挟みながら、Alcanza Suiteという9つの組曲で構成されており、激しさと叙情性のバランスが素晴らしくて刺激的な作品だった。
8. Becca Stevens / Regina
ベッカ・スティーヴンスの新作。
過去作と比べてエンジニアリングの比重がグッと増し、オーバーダビングで重ねられたボーカルのハーモニーは美しく、スケール感も大きくなった本作。いい意味でのメジャー感を獲得した作品のようにも思う。
個人的には彼女の最高傑作だと思うし、ジャズシーンという枠の中に閉じ込めず、ピッチフォークあたりがバーンとBest New Musicをあげてもいいような内容になっていると思う。
7月のCotton Clubでの来日公演にも足を運んでみた。4人の小編成ながらも豊かでかっこいいバンドサウンドを聴くことが出来て満足だった。特に、ジェイコブ・コリアーとの共作で本作にも収録されている「As」(スティーヴィー・ワンダーのカバー)をアンコールで聴かせてくれた時のチャランゴの柔らかな響きと歌声の清新さが忘れられない。 As (Stevie Wonder Cover) - YouTube
リリース当時はサブスクでも聴くことが出来た(ような記憶がある)が、2017年12月14日現在は聴けなくなっている。もっと多くの人に聴いてもらいたい作品だ。
Becca Stevens - Well Loved (Official Music Video) - YouTube
7. Hermeto Pascoal / No Mundo Dos Sons
欧米の音楽的流行とはまったく無関係のところで今年はエルメート・パスコアルの年だったといえるのではないかと思う。自身のグループ名義としては15年ぶりとなる本作に加え、76年の未発表スタジオセッション「VIAJANDO COM O SOM 」、新作ビッグバンドアルバム「NATUREZA UNIVERSAL」がリリースされている。未発表音源はさておき、齢80を超えてオリジナルアルバムを二枚リリースする活力たるや……。
自分でいうのもなんだが、世間的にみてそれなりに音楽が好きなほうであろう自分でも、2枚組のアルバム作品と真正面から向き合(略
そのため、本作がアルバム2枚組90分弱だと聴いた時に若干「ウッ……」と思ったのは嘘偽らざる気持ちだ。しかしながら、各曲でマイルス、ピアソラ、トム・ジョビン、エドゥ・ロボ、ロン・カーター、チック・コリアなど、様々なミュージシャンにオマージュを捧げ、その対象の音楽的要素を取り込みながら全体としてはパスコアルの音楽としか言いようのないエネルギッシュ創造的な90分を堪能した後は、そんな気持ちは全く無くなっていた。「創作意欲が溢れに溢れて、捨てる曲がなくなり、この長さになってしまった」ということがありありと伝わってきたからだ。全盛期と比較しても遜色がないどころか、僕個人としては本作がパスコアルの最高傑作ではないかとも感じられた。恐るべき80歳だ。
No Mundo dos Sons | Hermeto Pascoal & Grupo | Álbum Completo | Selo Sesc - YouTube
6. Chris Thile / Thanks for Listening
Punch Brothersのメンバーであり、マンドリン奏者のクリス・シーリのソロアルバム。ノンサッチ・レコーズからのリリースで、全編歌モノとなっている。
クリス・シーリは2016年からカントリー・ミュージックを中心としたアメリカの長寿バラエティ番組「プレーリー・ホーム・コンパニオン」の2代目パーソナリティを務めているらしく、毎週その番組で新曲を発表し、番組のハウスバンドと演奏しているらしい。その中から抜粋した10曲を再度レコーディングしたのが本作とのことだ。
クリス・シーリは幼少時よりキャリアをスタートし、ブルーグラス、フォーク、カントリー、ジャズ、クラシック、インディーロックなどの様々な音楽を消化して、ヨーヨー・マとバッハを演奏したアルバムと作ったり、(これも今年の作品だが)ブラッド・メルドーとのデュオアルバムと作ったり、パンチ・ブラザーズでブルーグラスに新しい風を吹き込んだり、と多岐に渡る活動を行ってきた。
もちろん本作もそういったものを積み上げてきた先にあるものだろう。ただ、本作はクリス・シーリのシンガーソングライター性のようなものが全面に出ているように感じられるし、ポップスとしての感触が強い作品だったように思う。
Chris Thile - Thank You, New York - YouTube
Chris Thile - Elephant in the Room (Official Audio) - YouTube
5. Nai Palm / Needle Paw
オーストラリアのバンド、ハイエイタス・カイヨーテのVo&G、ネイ・パームのソロアルバム。
ボーカルは重ねているが、基本的にギターの弾き語りに近い内容となっており、ハイエイタス・カイヨーテのセルフカバーが6曲ほどと、ジミ・ヘンドリック、デヴィッド・ボウイ、レディオヘッドなどのカバーなども収録されている。
本作を聴いてハッキリしたことは、ネイ・パームこそがハイエイタス・カイヨーテというバンドの紛れもない中心人物だということだ。
収録されているハイエイタス・カイヨーテのセルフカバーを聴いてみても、バンドでの録音から音数が減っていることによる物足りなさなどは一切感じられず、むしろネイ・パームの突出した個性に圧倒される。
そして、ハイエイタス・カイヨーテの音楽が如何にメンバー間の民主主義の結果であり、最大公約数的に出来た音楽だったのかが浮き彫りになってしまうようにすら思われる。そのくらいネイ・パーム個人の音楽性の豊かさや懐の深さがギターの弾き語りに近いこの音楽に如実に現れていると感じる。
4. bonobos / FOLK CITY FOLK .ep
bonobosの6曲入りミニアルバム。
bonobosの存在についてはもう10年以上前から知っていたが、その頃はまだFishmansフォロワーのいちバンドという認識で観聴きしていた。そこから、あまり情報を追わなくなって何年も経ち、話題になっていた去年のアルバム「23区」でひさしぶりにちゃんと向きあったという流れがある。「23区」を聴いて、「ああ、僕の知らないところでこのバンド(というか中心人物のVo&Gの蔡さん)はしっかりと歩みを進めてきたんだな」と感じさせられた。
そして本作。最初にこの作品を聴いた時、6曲全てのあまりの完成度の高さに圧倒され、(ミニアルバムという手軽さがあるにしても)そのまま何周も何周も繰り返して聴いてしまった。現体制のバンドとしての充実ぶりもサウンドにそのまま現れていると感じる。
1曲目の「POETRY & FLOWERS」の歌詞に「bnbsは今が最高」とある。本当にその通りだと思う。この流れで作られる次のフルアルバムが本当に楽しみだ。
bonobos - Gospel In Terminal - YouTube
3. Alexandre Andrés / Macieiras
ブラジル・ミナス新世代の顔役の一人であるアレシャンドリ・アンドレスの4thアルバム。前作に引き続き、全編インストのアルバムでアレシャンドリはフルートを中心に一部ギターも担当している。アンドレ・メマーリ、ジョアナ・ケイロス、アントニオ・ロウレイロといった、ミナス界隈の有名どころも一曲ずつゲスト参加している。
今年は本作にもピアノとアコーディオンで参加しているハファエル・マルチニと共に来日し、くるり主催の京都音博やその他数カ所で公演を行っているが、ライブを観た人たちから「素晴らしかった」という声が多く聴かれ、とても羨ましかった。
これまで僕はアレシャンドリ・アンドレスをマルチプレイヤーのように思い込んでおり、実際のところは圧倒的にフルート奏者なのだなということがようやくわかってきた。この人のフルートは本当に表現力豊かで素晴らしい。
01 - Haru (Alexandre Andrés) - YouTube
04 - O Gafanhoto (Alexandre Andrés) - YouTube
余談だが、エグベルト・ジスモンチとも何度か共演しているようで、ジスモンチの代表曲のひとつ「Palhaco」を一緒に演奏している今年の動画も本当に惚れ惚れする演奏で素晴らしかった。この動画が700回くらいしか再生されていないのは世界七不思議のひとつ。
Alexandre Andrés Doutorado (2017) - YouTube
2. björk / Utopia
前作の「Vulnicura」から2年半ぶりのリリースとなる本作。
前作は、パートナーとの離別などの出来事がコンセプトとなっていたこともあり、とてもパーソナルで内省的な印象を受けた。個人的には好きな作品ではあったのだが、Arcaとのコラボも一部の曲にとどまり、少し物足りなさを感じたのも事実だ。
そして本作だが、Arcaの全面プロデュースということで期待して聴いた一曲目「Arisen My Senses」から本当に驚かされた。「ユートピア」というタイトルが示す本作のコンセプトとArcaの音楽がこの上なく噛み合った凄まじい曲のように感じられた。
その以降の曲も、本作のために結成され、ビョーク自身がアレンジと指揮を担当したという女子12名のフルート・オーケストラが奏でる柔らかい木管の響きを全面に出した曲が並んでいる。
まず、ビョーク自身の考えたコンセプトと彼女の想像力が素晴らしかったのは間違いのないことだが、新しい引き出しを解放したかのようにビョークのビジョンを最高の形で実現したArcaにも賞賛を送りたい。
理想郷にフルートの花が美しく、そしてどこか悲しく狂い咲いている、そんなアルバムに思える。
1. 伊藤ゴロー アンサンブル / アーキテクト・ジョビン
トム・ジョビンことアントニオ・カルロス・ジョビンの生誕90周年に合わせ、naomi&goroでの活動や原田知世のプロデュースでも知られる伊藤ゴローによって制作されたトリビュート・アルバム。
コンセプトとしては、「ドビュッシー、ショパン、サティなどのクラシックにも影響を受けていたジョビンのクラシカルな一面にフォーカスする」というもの。そういったコンセプトもあり、ジョビン本人の音楽と比べて室内楽的な側面が強く出ているように感じられる。
本作の特徴として、曲そのものの良さもさることながら、録音の美しさが際立っていることが挙げられるように思う。ストリングスやギターの柔らかな響き、ピアノの抑制の効いた鳴り、そういったものから感じられる徹底した美意識が作品の美しさに直結しており、作品にメロディーやハーモニーだけではなく音響的な悦びを付与しているように感じられる。
本作を聴いて、改めてじっくりとジョビン本人の作品にも向き合ってみた。ボサノヴァの創始者としてキャリアのスタートから晩年にいたるまでの作品を、本人の人生の浮き沈みを含めてじっくり味わう機会をあらためて与えてくれたことにも感謝したい。
【インタヴュー&レコーディング・レポート】伊藤ゴロー最新作『アーキテクト・ジョビン』が伝えるボサノヴァの巨匠が残したクラシカルな足跡 - ハイレゾ音源配信サイト【e-onkyo music】