犀の角のように

H30年7月9日より勉強ブログになりました。32歳からの学び直しの記録です。

東雲めぐの衝撃と今後の二次元コンテンツに関する考察

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「東雲めぐ」とは

ストリーミングライブ配信サービス「SHOWROOM」をプラットフォームとして、今年の3月1日からリアルタイム動画配信を始めたバーチャルSHOWROOMERです。

僕はこの「東雲めぐ」とそれを実現している技術が、この先アニメを中心とした二次元コンテンツの中で大きな存在になっていくだろうなと考えています。

その理由をこれから色々と書いておこうと思うのですが、結論として一番大きな理由は「文句なく可愛い」からです。単純ですが、二次元ビジネスにおいて一番大切であろうこのことをクリアしているのが何より大切です。

論よりもまずは観た方が早いと思うのでこちらをどうぞ。(現在SHOWROOMの配信動画のアーカイブを残していないので、YouTubeのダイジェスト動画になります)

 

技術面からみた東雲めぐ

こちらはオーディションの際に公開された配信イメージ映像です。

東雲めぐに採用されている使用機材はパソコン、VRヘッドセット「Oculus Rift」、ハンドコントローラー「Oculus Touch」のわずか3つだけだそうです。それらを用いて「AniCast」というバーチャルキャラクター配信システムを動かし、SHOWROOM上であのような挙動を実現しています。配信に際して、そのほかの大掛かりな装置やサポートをするスタッフは不要で、東雲めぐの配信も声優が自宅でひとりで行っているとのこと。

そして、東雲めぐに限らずとも、このシステムを使えばSHOWROOM上で比較的低コストで同じような挙動を実現出来るみたいです。

つまり、キャラクターの3DCGのモデリングという初期投資を行えば、このシステムを使うことである程度容易に第二・第三の東雲めぐを作ることが出来るということになります。そのため、おそらく今後のバーチャルYouTuber的なものの日本国内でのプラットフォームはYouTubeではなくSHOWROOMになるのでは?と思います。

そして、このシステムやそれを実現している技術は単にバーチャルSHOWROOMERといった範囲に止まらず、アニメ製作の現場でも使われていくのだろうと思います。

現に、東雲めぐは、2018年にYouTubeにて配信予定の3DCGアニメ『うたっておんぷっコ♪』のメインキャラクターとして生み出されています。

そして、そのアニメの製作プロジェクトのプロデューサーの方はこのように言っています。

 その意味について考えていきたいと思います。

 

アニメの製作現場に起こる変化

まず現状の「AniCast」のシステムの時点で、キャラクターが口を動かして声を出し、歌い、体を動かし、表情を変えるという一通りのことが出来、そしてカメラのアングルも変えることが出来ます。これに美術(背景)が加われば、それだけでシンプルなアニメとして成立してしまいます。歩く、走るといった全身運動がどこまで出来るのかについては先述の『うたっておんぷっコ♪』がどういう仕上がりになるのかで確認したいと思いますが、おそらく既に実現可能なのかなという気はします。

現在も3DCGで作られたアニメは日米ともにたくさん存在しますが、キャラクターの3DCGモデリングを行い、「AniCast」のシステムに乗せるだけで少なくとも東雲めぐのクオリティのアニメーションが簡単に作れるとなると、現在の原画マン動画マンが手で書く制作のあり方から少しずつシェアを奪っていくのでは、という気がしています。

もちろん「AniCast」は人間の動作をそのまま模するものなので原画マン動画マンが全く必要なくなるということはないと思います。ただし、労働人口は少しずつ減っていき、人間以外の動物や物体の動きであったり、もしくはアニメ特有のデフォルメされた表現などを残った技術の高い人が担っていくのかなと考えます。そうなった時には人件費が削れた分だけ残った人たちに技術に見合った対価が与えられてほしいと思います。これは僕の願望ですが。

  

今後作られると予想されるアニメの傾向と課題

【傾向】

1.  アニメと現実の融合

まず、先ほどのGugenkaプロデューサーもツイートで言っているようにアニメと現実を融合させることを想定したアニメ作りが増えてくるかと思います。具体的にはアニメのキャラクターがSHOWROOM配信を行ってファンと直接交流したり、あるいは現在の声優が舞台に立つライブ興行から初音ミク型のライブ興行が増えていくのではと考えています。「東雲めぐ」もおそらくその流れを最初から意識したプロジェクトです。

バーチャルなアニメのキャラクターと直接やりとりが出来る時代というのは多くのアニメファンが望んでいたものなのではと思います。

2. 作品の長期コンテンツ化

現在のアニメは1クール、せいぜい2クールで終わるものが多いです。

これまでの作り方だと回を重ねるごとにその分作画のコストが積み上がっていきましたが、「AniCast」を用いた制作方法では最初に3DCGのモデリングコストをかかり、放送回数を重ねるごとにひと回あたりのモデリングコストが少なくなっていくため、今までよりも長期で制作することにメリットが生じるのではないでしょうか?

そして、SHOWROOMギフトやファングッズ、関連アプリなどの利益で制作費をまかなえるようになれば、テレビというプラットフォームと円盤売り上げに依存する今の制作のあり方を離れ、YouTubeで長期に渡ってアニメを配信し、息の長いコンテンツに育てることが出来るかもしれません。

 

【課題】

このシステムを使ったアニメ作品が多くなると、必然的に同じような動きをするものばかりになり、アニメーションの多様性が損なわれそうです。今後はシステムの中でそういった多様性を実現出来るのかも課題になるのかなと考えます。

 

声優の女優化と匿名化

このシステムでの制作が行わるようになると、これまで声の演技だけを求められていた声優にも女優と同じように身体の演技が求められるようになります。身体の演技と声の演技を分けてひとつのキャラクターを作ることも技術的には出来そうですが、そのキャラクターを使ったリアルタイム配信のことを考えた時にはやはり同じ人物がやるべきだと思います。

また、東雲めぐの中の人はオーディションによって選ばれた人物です。キャラクターの設定は今年の3月に中学校を卒業した15歳ですが、中の人の年齢は公開されていません。実際に中の人も15歳でキャラクターと自分のプライベートを重ねて話しており、今のところ齟齬が出ていないだけということもなくはないですが、可能性は薄いと思います。

つまり、これからの声優はアニメの作品内だけではなく、SNS上での振る舞いや動画のリアルタイム配信という環境においても自分の演じるキャラクターを考慮して発言しなくてはいけません。

東雲めぐの中の人は見事なものです、配信の中で投げ銭アイテムを手に取りながら視聴者と直にコミュニケーションを取り、「おかあさんにうるさいと怒られた」と声を小さくし、(普通の中学生は友達と過ごしたり親とお祝いをするだろうから)卒業式の夜と次の日の朝は配信しないといった部分にまで気を使い、キャラクターの実在感を保っています。そういった細部にまで頭を使い、演技が出来る人が今後の声優に向いているのかなと思います。

そして、キャラクターの実在感が今まで以上に大事になってくると声優個人の顔やパーソナリティ情報の重要性は必然的に下がります。東雲めぐの中の人も非公開です。

そのため、声の良さが必要という前提は崩れないものの、ビジュアルも求められてきた声優の世界も少しずつ変わり、いかに映像作品の外(つまりSNSやリアルタイム配信の中)でもキャラクターを演じきれるかという知性のほうがより重要になってくるのかもしれません。

[追記]

開発されている方々のツイートの中で出てきた話が面白かったので追記します。

「女優化」とまで書いておきながらその視点が抜けてたのは笑うしかないですが、現在人気のあるYouTuberが事務所に所属してタレント活動を行っているように、バーチャルユーチューバー達も事務所の所属タレントになることが考えられます。

東雲めぐにもいくらか設定としての決め事があるかもしれませんが、基本的には東雲めぐという存在、人格自体にファンがついています。そのため、今後はアニメの世界にも映画やドラマのようにタレントのキャスティングという概念が入ってくることも考えられます。いくら人気があったとしても綾波レイエヴァ以外の作品に出ることは事実上難しいですが、特定のアニメ作品のキャラクターではないところからスタートしている東雲めぐは複数のアニメ作品に出演出来そうです。そして、アニメの番宣やCMに東雲めぐ自身が出ることも容易で低コストです。

 

そのあたりのことも踏まえながら、現在前例のない中でそういった声優のあり方に取り組んでいる東雲めぐとその中の人を見守っていきたいと思います。