VR、立体音響技術から始まるこれからの音楽の形
いきなりタイトルから大きく出ましたが、「これからの音楽」についての僕が持っているイメージを説明してみようと思います。
ただ、僕は技術者でも音楽家でもないただの音楽ファンなので、技術面でも音楽面でも間違ったことを書いてしまうかもしれません。
その時はお手柔らかにご指摘いただけると嬉しいです。僕自身、自分の持っているイメージがどこまで正確なものなのか測りかねており、なおかつ純粋に興味があって正しく理解したいからです。よろしくお願いします。
前置きも無駄に長く、長文になります。お付き合いいただけたら嬉しいです。
そもそも今当たり前に存在する楽器もかつては新しいテクノロジーだったはずです。一定の長さ、一定の張力で張った弦を打弦したり、撥弦したり、擦弦したりすると決まった音が出るということに誰かが気づいて様々な楽器が発明されました。そして、音の高さにルールを設け、その決められた音を使って西洋の音楽理論が体系化されてきました。
その後もテクノロジーと音楽の関係は親密です。マイク、アンプ、スピーカーが発明され、アナログな音を電気信号に変換して音量を増幅出来る様になると、大編成のオーケストラやビッグバンドでなくとも、つまり小編成のバンドなどでもライブで色々な表現が出来る様になりました。
1960年代にエレキギターが普及すればジミヘンが登場し、1970年代にシンセサイザーが普及すればクラフトワークやYMOが登場します。音楽の発展や進化とテクノロジーは常に隣り合わせです。
しかし、クラフトワーク登場以前にシンセサイザーがなかったのかというと全くそういうことはありません。シンセサイザーは1930年頃から開発が進められ、1950年代からはミュージック・コンクレートという現代音楽のいちジャンルの中で、また日本でもNHK音楽スタジオで黛敏郎や武満徹などによって音楽としての応用が研究されてきました。1971年には冨田勲さんが(当時の価格で)1000万円でモーグというシンセサイザーを個人輸入しています。
そうして、1974年にようやくクラフトワークの「アウトバーン」というアルバムで電子音楽が大衆に広まるわけです。(ちなみに冨田勲さんのモーグでのデビュー作「月の光」も同じ年です)
音(音楽)に関する新しい技術は、初めは技術者と本当に先進的な現代アーティストの間で研究がなされ、少しずつ技術の扱いが容易になり、機材などの価格がなんとか手の届く範囲にまでコモディティ化したところでようやくその技術が民主化され、広く世間に聴かれる音楽、つまりポップミュージックに浸透していくことになります。
では2000年以降の音楽について考えてみましょう。
2000年以降の音楽についてテクノロジーを絡めて話をするならば、「PCの普及と性能向上に合わせて進んだ音楽制作現場の民主化」と言ってしまっていいと思います。PCの性能向上とともにDAWで出来ることがどんどん増え、少しずつソフトシンセや機材の価格も下がってきます。そんな中で、例えば日本では2007年頃にPerfumeのような存在がドカンとポップシーンに現れるわけです。
しかしですね、2000年から2018年の今に至るまで「音楽制作現場の民主化」以外の大きな地殻変動って実はなかったんじゃないかと思います。
僕個人のことで申し訳ないですが、2010年からせいぜい2012年くらいまでは、例えばテックハウスやミニマルテクノといったエレクトロニックミュージックにも関心を持って聴いていました。しかし、その後はArcaのような突出した例を除けば、僕個人の音楽の興味はだんだんと人が演奏する音楽に戻っていきます。特に難しい理屈を考えてそうしていたわけではなく、多分自然に飽きてきただけです。きっとDAWで出来ることの可能性がかなり出尽くしてきた時期だったのかもしれません。
そんなタイミングで僕を含めた日本の音楽好きの間で大きな話題となったタームといえば「Jazz The New Capter」です。
ジャズとヒップホップを掛け合わせたロバート・グラスパーやケンドリック・ラマーの3rdアルバム、J DIllaなどの揺らぎのあるビートやエレクトロニックミュージックのビートをドラムで表現したクリス・デイヴやマーク・ジュリアナが話題になります。
僕なりにこれがどういうことだったのかを言葉にしてみると
「DAWというテクノロジーによる音楽の更新に停滞感が出てきた中で、人が創意工夫によって生み出した新しい価値」
となりそうです。
要するに、新しいテクノロジーが音楽に入ってきた時はアイデア一発勝負でも新しい価値を生み出せるけれど、DAWで出来る新しい表現が減ってきた2010年代中盤以降の難局に、音楽ファンに新しい価値や新鮮な驚きを与えられるのは技術と知性を持ったジャズミュージシャンだったってことだと思います。
インターネットに例えるとわかりやすそうです。インターネット黎明期にはクソみたいなサービスでもみんな喜んでいましたが、今となっては新しい価値や驚きを提供するのは高い技術と知性を持ったGoogleやAppleやFacebookばかり、そういうことです。
だけど、僕は今、立体音響を扱う技術の民主化が目前まできており、「立体音響技術を用いた音楽」が新しい表現の可能性を生み出していくような気がしています。その鍵となるのはVR(バーチャルリアリティ)です。
【現在の立体音響音楽】
現在の立体音響を用いた音楽は概ねサウンド・アートと呼ばれる芸術のいち分野とされます。これはシンセサイザーと使った音楽がミュージック・コンクレートと呼ばれた時期と同じかと思います。
アプローチとしてはふた通りあるように思われます。
①「現実空間の中でたくさんのスピーカーを用いたマルチ・チャンネル音響作品」で会場を使ってインスタレーションのような形を取るもの
更にここから少し進んだ最新の状況として、
②「プログラムによって作られたマルチ・チャンネル音響作品」
というものがありそうです。
坂本龍一さんがサンコレと共同で開催したマルチ・チェンネル音響作品のコンテスト「設置音楽コンテスト」で以下のような総評を出しています。
せっかくなので、このコンテストで優秀賞を取られた松本晃彦さんの音楽をヘッドホンで聴いてみましょう。
めちゃくちゃ面白いです。
おそらく自作された二次元の画面のDAWで音を空間のどこに配置してどう動かすかをプログラミングしているんだと思います。こんなことは本当に素晴らしい技術を持った人しか出来ないはずです。
ですが、VRの技術がこれから普及してくると、三次元の空間の中に誰しもが直感的に音を配置出来る様になるんじゃないかと僕は思います。
2020年にはAppleがVRに本格参入してくるようです。これは僕の勘ですが、Logic、iTunes、iPod、Apple Musicと音楽にがっつり向かい合うAppleなので、2020年以降のどこかで立体音響音楽を簡単に作れるような3DのDAW、つまり次世代のLogicを出してくるんじゃないかなと予想しています。
【僕なりに思い描く3DのDAWのイメージと実現可能なこと】
まず、現状のVRにおける立体音響技術のまとめ記事です。
おそらくですが、 3DのDAWは【現在の立体音響音楽】 の①と②を掛け合わせたようなことをVR空間で行うものになるような気がします。
音楽制作の流れのイメージを書いてみたいと思います。
⑴ VR空間の中に①でいうところのインスタレーションの会場を作ります。会場の大きさを決め、残響などの音場設計をシミュレートして設定します。現実のインスタレーション会場と違い、VR内で作る会場は曲と途中で(例えば◯小節目からなどの)変更も出来そうです。つまり、ものすごく残響の多い閉じた閉鎖空間(世界)から一気に開けた空間(世界)に移動するような音楽上(音場上)の演出も可能になりそうです。
⑵ そのVR空間(会場)の中で聴き手の立ち位置を設定します。
⑶ そのVR空間の中にMIDIファイルやオーディオファイルを配置したり、そのファイルが聴き手に対してどのように動くのかを決めます。例えば、長い音価のシンセ音があったとしたら、「その音が聴き手の2メートル離れたところを1周に2小節かけてグルグル回る」みたいなイメージです。VRの空間の中で音の動きを視認しながら直感的に設定できます。現実のインスタレーションでは予算などの関係で配置出来るスピーカーなども限られますが、VRの中ではデバイスのスペックが許す限りいくらでも空間に音を配置出来そうです。
どうでしょう?想像出来ますかね?「こんなもんありえねー」と思いますか?僕も100%の自信があるわけではないですが、イメージは出来てしまいます。
【VR、立体音響以降の音楽がポップスに下りてくる時】
もしこういったことが実現可能になり、こういった技術を使って生まれてくる音楽がいつかポップスにまで下ってくるとしたらそれがいつなのか……。例えるなら2007年の時のPerfumeのような存在がいつ出てくるのか。
とりあえず、2025年くらいと考えてみるのはどうでしょう?
では、次のPerfumeのような存在をプロデュース出来る人物は誰なのか。これまでの音楽と新しい音楽の両面に深い造詣があり、なおかつその気になれば極上のポップスに振り切ることも出来るであろう人物。
本人に全くその気がなければごめんなさいしますが、僕がパッと思いつく範囲で考えたなら、例えば 網守将平さん が頭に浮かびます。