ジェイコブ・コリアー(Jacob Collier) 「In My Room」
あらゆる楽器を自身で演奏し、マイケル・ジャクソン、カーペンターズ、スティービー・ワンダー、ジョージ・ガーシュインなどの曲のカバーをYouTubeにアップして話題になっていたジェイコブ・コリアーのデビューアルバム。
クインシー・ジョーンズが惚れ込み、クインシーのレーベルQwest Recordsのリリースとなった。
パット・メセニー、ハービー・ハンコック、チック・コリアといったジャズ界のレジェンド達の熱い支援を受け、XTCのアンディ・パートリッジが「ジェイコブの才能に比べたら自分はフェイクだ」と語り、メトロポール・オーケストラと共演し、スナーキー・パピーやベッカ・スティーヴンスといった若手とも積極的に交流を深めている現在22歳。
(なんていい写真……)
さて、本作のタイトルが「In My Room」であるように、ジェイコブにとって自身の部屋は特別な場所である。
実家の築110年のミュージックルームが彼の子供の頃の遊び場だった。母親がヴァイオリンの先生をしており、彼女が教室として使用していたこの部屋は音楽で常に溢れていた。
(母親のスージーと)
そんな母親からも多くを学んでいたが、ジェイコブが10代前半の頃にレコーディングソフトを手に入れてからは朝から晩までこの部屋に篭るようになった。母親から教室を奪い取ってしまったようだ。
音楽一家に生まれ、幼少時より音楽の英才教育を受けた人たちは多くいる。特にクラシックの世界においては、大バッハの時代から現在に至るまでそういった傾向が強くあるのは変わらないだろう。
ジェイコブも同様に幼少期より音楽と密接に関わってきたが、「学校で作曲術を勉強したこともなければ、リズムやハーモニーについて学んだこともなかったし、楽器の先生についたことすら一度もなかった。この部屋で物を作り上げてゆくプロセスこそが、僕にとっての学習のすべてなんだ。」「ありったけの時間を実験、そしてあらゆるジャンルの膨大な数のアルバムを聴くことに費やした」とジェイコブは語っている。
そのような形で音楽と関わり、イマジネーションの翼を広げてきた彼の音楽は、驚く程に自由で、奔放で、音楽をやる喜びに満ちているように感じられる。
また、彼のライブ映像を観ていると、まるで新しいおもちゃを手にしたばかりの子供のようにステージ上を動き回り、楽しげに音と戯れているようにみえる。
ジェイコブの無邪気とも言っていいような音楽に対する好奇心と情熱は、私のような音楽に憧れを持つ者にとって眩いくらいの光であり、またその光の強さが、時にはアンディ・パートリッジすらも卑屈にさせてしまうのだろう。
ジャズの大御所たちがこぞって彼と彼の音楽に惹かれる理由もきっとこのあたりにあるのではないかと思う。
「今も自らのために学び、自らのイマジネーションの中を探求し続ける子供のままでいるんだ」と語るジェイコブにとって、自身の部屋は今でも学校であり、遊び場であり、そして聖域なのであろう。
語るべきことはまだまだ沢山あると思うが、ライブ評については吉岡正晴さんのブログに詳しく書かれています。
◎ワンマンバンドの未来を見た~ジェイコブ・コリアー初来日ライヴ評(パート1)~10年に1度の衝撃|吉岡正晴のソウル・サーチン