犀の角のように

H30年7月9日より勉強ブログになりました。32歳からの学び直しの記録です。

ブラックパンサーについて(ネタバレあり)

昨晩、マーベルスタジオの新作「ブラックパンサー」を観て非常に感銘を受けたので、自分なりに感想をまとめてみたいと思います。

 

その前に、僕の現状の世界の認識についてです。

まず、データとして出ている事実として、資本主義の加速による富の偏りがあります。

そして、その富が特に集中しているのがアメリカのシリコンバレーにあるIT企業、特にAppleMicrosoft、Alphabet(Google)、AmazonFacebookのBIG5です。

これらの企業に共通する特徴は、例えそこにいくらかの欺瞞があったとしても、世界の人たちみんながそう望んでいなかったとしても、彼らがもたらす変化によって不利益が生じる人が沢山出てこようとも、強烈な意志と実行力で世の中を彼らの理想とする世界に作り変えていることです。

これらの企業は事業を通して手にした膨大な情報を背景として、人工知能の開発を進めています。また、自動車も電気自動車への移行による内部構造の変化にともない、これらのIT企業も含めた競争となってきます。自動運転技術やVR/AR、となんでもいいですが、この先の世の中に大きな変化をもたらすであろうあらゆるテクノロジーがコンピューターサイエンスの上に成り立ってきて、どうやらこの流れは止まることがなさそうです。

もし、従来のコンピューターとは比べ物にならない処理速度が出るという量子コンピューターの技術がより成熟したら、そのスピードは更に加速するはずです。

更にGoogleマップなどで兼ねてから都市についての検証を行っていたAlphabetはカナダのトロントで市内12メーカーの未開拓値において都市そのものの開発を行っています。

 

現時点でどの程度の人がこの都市に魅力を感じるのかはわかりませんが、人々が今よりももっと自由に自分の生きる場所を選べる時代になった時、グーグルがこれらの実験で提案するような都市で生きたいという人はかなり出てくるんじゃないかと思います。

 

さて、ここからようやく映画の話になりますが、ざっくりとあらすじです。

まず、本作の舞台となるワカンダ王国は世界から存在を隠しているテクノロジー立国として描かれています。

物語は主人公ティ・チャラの父であるティ・チャカ王の殺され、ティ・チャラが王位を継承するところから始まります。ティ・チャラは自国の国民を守ること(ひいては自国の国益を守ること)を第一に考えて国を発展させてきた父ティ・チャカを心から尊敬しており、当初は父と同様の方針で国を率いていくことを考えます。

物語の中盤から、父ティ・チャカがそういった国家の運営をする中で隠していた欺瞞とそれによって犠牲になったり、被害を被った人物の存在が明らかになってきます。

ワカンダに科学技術の発展を抑えられているジャバリ族もそうですし、父をティ・チャカに殺されたエリックもそうです。

エリックはワカンダとワカンダの科学技術を乗っ取り、そのテクノロジーを武器にかつての帝国主義のような振る舞いで世界を変えていこうと企てます。エリックとの王位をかけた決闘の際、心の優しいティ・チャラは自分の父がエリックにした行いに対する罪悪感のようなものから力が発揮出来ず、決闘に敗れてしまいます。

一命を取り止めたティ・チャラはハーブの見せる幻の中で父と父のやり方からの決別を宣言し、暴走するエリックを止めに戻ります。

エリックに勝利し、国王の座に戻ったティ・チャラは、ワカンダの本来の姿を世界に公開し、ワカンダの科学技術を世界に広め、富を世界に分け与えることとします。そして、エリックの住んでいた土地に国際支援センターを設立します。場所はカルフォリニア、シリコンバレーのある土地です。

 

僕はこのワカンダという国をIT企業のメタファーとして観ました。

父ティ・チャカのワカンダの運営のあり方は、IT企業が自分たちの利益を過剰に優先する姿に重なりますし、エリックの存在はそういった企業や資本主義に搾取された途上国であったり、資本主義で負けた側の存在と重なります。そして、エリックがワカンダを乗っ取ってやろうとしたことは、IT企業が自分たちの都合のいいようにテクノロジーで世界を過剰に変えていくことに対する警鐘のようにも思えます。

最終的にティ・チャラが選んだワカンダのあり方は、富めるものにはそれ相応の責任があり、社会の模範として振る舞う義務があるというノブレス・オブリージュの思想を体現するものです。

そのことを、これから益々一部の人や企業への富の集中が加速していきそうな現代に、資本主義の中心であるアメリカから、これまでの人類の歴史の中でずっと搾取されてきたアフリカの黒人を主人公にして描かれたことにはとても大きな意味があると感じました。

実際のところ、アメリカのIT長者がこういったことを何もしていないわけではなく、マイクロソフトの第一線を退いたビル・ゲイツはビル&メリンダ・ゲイツ財団という世界最大の慈善基金団体を設立し、世界の貧困や病気、教育などの問題の解決に力を入れています。その基金には投資家のウォーレン・バフェットも300億ドルの寄付をしているとのことです。

世界の格差の解消が人類の持続的な発展に繋がるといったような大きな視野での取り組みや行動を僕のような小さな人間が日々の暮らしの中でどこまで出来るについてはなかなか難しいところもあると思いますが、知らずに生きているよりはちゃんと知った上で生きていきたいなということを改めて考えさせられる映画でもありました。

古着についてのとりとめのない話

最近古着についてなんとなく考えていたことを書き残しておこうと思う。

僕は現在31歳なのだが、学生時代は比較的洋服が好きな人たちに囲まれた環境にいた。そういった環境の中で見てきた「古着好き」はざっくりと2パターンに分類出来るような気がいている。

①古着オタク

古着という文化自体が好きで、洋服ごとブランドごとアイテムごとの歴史に関心がある人。TALONのジップの形状から年代を特定する、みたいなことが好き。

こういう人は古着屋でバイトをして、中にはそのまま就職した人もいたな。

②文脈に執着しない古着好き

古着自体への愛着や知識は人それぞれだが、その古着のブランドや歴史といった文脈自体にそこまで執着せず、自分の感覚で自分なりにそれらを取り入れて、「結果的にかっこよければそれでいいでしょ」といった人。

この辺はわりとヒップホップのサンプリングに似てるなと思っていて、サンプリングソース自体に愛着や敬意があるかはそこまで重要ではなく、出来上がったものがカッコよければそれでいいといった感じ。

 

当時の僕はどうだったかというと①と②を足して薄めた感じだっただろうか。服の成り立ちや歴史について調べるのは好きだったけど、古着メインになることはなく、手持ちの洋服に少し取り入れるくらいの感じだったと思う。

僕自身が歳を取り、地方に移って環境が変わったこともあるけど、今も東京には①のような人種はけっこういるんだろうか?少なくともインターネット上であまり見かけることがないような気がする。アメカジについて熱く語る中年ってどこに消えたんだろう。

それはさておき、僕が学生だった12年ほど前は「数年前のブランド古着を買う人」に対して、周りがあまりいい評価をしていなかったような気がする。

①や②の人から見ると、「洋服や古着に強いこだわりがあるわけでもなく、かといって自分のセンスで何かを提案してみせるわけでもなく、ただブランド品を安く買いたいだけ」に見えたんだろうし、まぁそう考えるのも納得はいく。

そして、2018年現在の十代後半、二十代前半にとってもそういった感覚が残っているのかについてすごく興味があるが、たぶんそのあたりの感覚はだいぶ変わっていて、そういったことを特に意識することなく、メルカリで自分の好きなブランドで検索してバンバン買ってるんだろうなと思う。

理由としては

①(当然ながら)スマホの普及でネットオークション、フリマアプリがより身近になった

②日本全体の所得水準の低下により新品の服が高く感じられるようになった

③00年代のファストファッション台頭以降、アパレルメーカーにまともな価値提案をする体力がなくなり、トレンドの力やトレンドの更新力が鈍くなった

④本質的な価値のない古い洋服を”ビンテージ”と称して粗い値付けで売っていることがネットを通して消費者にバレちゃった

みたいな感じなのかもしれない。

だからどうしたって感じだが、特にこれ以上の話は特にないです。

それはそうと、古着屋を巡っていた当時の記憶は今でもいい思い出だな

過去に捨てられた可能性について

二つの記事を読んで、最近ぼんやりと考えていた事をまとめてみたいと思います。

 

一つ目が、先日ロケットの打ち上げに成功したアメリカの民間企業SpaceXと、そのロケットに使われたクラスターロケットというエンジンについてです。

 

この記事にもありますが、1969年から1972年にかけてソ連が小型のロケットエンジンを沢山束ねて一つのエンジンとして使うクラスターロケットを用いたロケットを開発しましたが、当時の未発達な技術ではエンジンを制御仕切れず、打ち上げは全て失敗しました。その結果、少数の巨大なロケットエンジンを使用したロケットが主流となり、現在に至ります。

ところが、今回打ち上げられたSpaceXのロケット「Falcon Heavy」のエンジンは、クラスターロケットが用いられました。一基のブースターに9つの小型エンジンを搭載し、三基のブースターで、つまり計27つの小型エンジンでロケットを飛ばします。

これは近年のコンピューターの発達により、沢山の小型エンジンを細かく制御することが可能になったため実現したことであり、それを民間企業が成し遂げたことに多くの賞賛の声があがりました。

 

二つ目は、電気自動車(EV)についてです。

自動車の歴史を振り返ると、電気自動車はガソリン車よりも先にこの世に生まれ、1850年代頃から1900年代前半頃まで有望視されていたようです。

ところが1910年頃、アメリカのフォード社がガソリン車のフォードT型の大量生産を実現すると、電気自動車はガソリン車に走行性能、生産性、市場価格で大敗し、一気にガソリン車の時代になりました。

その後も電池の技術革新の時やオイルショックの時などに度々電気自動車の話題が挙がるものの、ガソリン車に取って代わるほどのものは生まれず、ご存知の通り、現在にいたるまでガソリン車(ハイブリッド車含む)が中心の世の中です。

しかし、近年、リチウム電池の性能の向上などから電気自動車(EV)の話題が多く聞かれるようになってきました。すでに電気だけで走る電気自動車も市場に出回っており、GoogleMicrosoftなどのこれまで自動車に関わってこなかったような会社のEV新規参入の話も聞かれ、日本のTOYOTAも昨年12月にパナソニックと組んで本格的に電気自動車(EV)に取り組むことを発表しました。今回はどうやら本当に電気自動車(EV)がガソリン車に取って代わっていくことになりそうです。

 

これらのニュースは、過去に技術的に実現できなかったり、他のアプローチとの競争に負けて捨てられてしまったアプローチが、テクノロジーの発達により再度可能性のあるものとして浮上したということです。こういったことを「歴史の針を巻き戻した」という表現するメディアもあるようですが、個人的には「歴史の針が一周回ってきた」と言う方が適切なように思えます。

 

さて、他にも人類にとっての「他のアプローチとの競争に負けて捨てられてしまった(もしくは縮小してしまった)アプローチ」がないかを考えてみると、「資本主義に負けてしまった共産主義(あるいはその前段階としての社会主義)」というものが思い浮かびます。

では、社会主義にとって「歴史の針が一周回ってくる」ようなことがあるでしょうか?

ここからは思考実験のようにもなりますが、少し考えてみたいと思います。

まず、社会主義の問題点としてよく言われることが

社会主義では資本主義のように新しいものを開発したり生産性を高めるモチベーションが上がらないため、技術力や産業力で資本主義に負けてしまう(戦争でも)

②政治腐敗がおこり、平等で公平な分配ができなくなる

という二点です。

これらについて語る上で、最近話題になっているAIとブロックチェーンがキーワードになりそうです。

まずAI(人工知能)については、近い将来(2045年とよく言われます)AIが人間の知能を超える日、シンギュラリティ(技術的特異点)がきて、機械やAIが今人間が行っている仕事をこれまで以上に担うようになると言われています。僕個人としても、そんな簡単なものかな?という気持ちもありつつ、そんな未来が楽しみでもあります。

もしもそういったことが本当に実現していくと、時間が経つごとに人間はどんどん労働から解放されていきます。当面はAIの学習や機械の開発をする人間が必要でしょうが、そのうちAI自身が学習して労働の生産性を高めていくかもしれません。そうやって、機械やAIが生み出す富やモノで人間がある程度生きていけるようになった時、機械の労働に税金をかけて、ベーシックインカムで人間が暮らすようになるのではと言われています(もちろん全員が労働しなくなることはないはずですが、働きたくない人は働かなくてもいい社会のようなイメージです)。集められた税金の公平な分配については、AIが判断を下し、ブロックチェーンのスマートコントラクトにて実行されれば、権力者による搾取も生まれにくくなりそうです。

正直こんな簡単な話ではないでしょうが、「高度に発達した資本主義社会で生み出されたAIやブロックチェーンなどのテクノロジーが普及し、その結果として生まれてくるアップデートされた社会主義」みたいなもの輪郭がボンヤリと見えてきたような……気がしなくもないです、本当にボンヤリと。 

ブロックチェーン以降のゲームについて考える

昨晩、イメージが一気に広がったので書き残しておこうと思います。

理解が足りておらず間違った記述もあるかもしれないですがご容赦ください。

また、ブロックチェーン技術はまだまだ発展途上であり、世の中の仕組み自体も全くブロックチェーン技術に対応していないため、ここに書いたことが仮に実現するとしても沢山の人が遊べるようになるまでにはまだまだ相当な時間がかかるであろうこともご理解ください。

では、ひとつひとつ整理していきます。

 

トークンについて】

まず、”仮想通貨”という言葉から、 今暴騰暴落で話題になっている全ての仮想通貨が「通貨」としての役割に特化したもののように思われがちですが、そうではありません。

ブロックチェーン技術(もしくは分散型台帳技術)の上で運用される様々な価値がそれぞれの仮想通貨として売買されています。

そして、「通貨」の役割に特化させたもの、つまりブロックチェーンの上で「通貨」を運用したものの代表がビットコインになります。

では、仮想通貨市場で現在ビットコインに次ぐ時価総額2位のイーサリアムはどうかというと「分散型アプリケーション (DApps) やスマート・コントラクトを構築するためのプラットフォーム」という説明がなされます。詳細は省きますが、イーサリアムブロックチェーン上で様々なことが実現可能ということです。

イーサリアムで実現出来ることの一つに「トークンの発行」が挙げられます。トークンとは、イーサリアムブロックチェーン上で運用される「通貨」のことです。つまり、企業や自治体、そして個人にいたるまで、誰もがビットコインのような通貨を発行出来るようになるわけです。今後、このトークンが沢山の経済圏を生み出すと考えられており、「トークンエコノミー」という言葉で最近はよく語られています。

そして、トークンはおそらくゲームと物凄く相性がよく、今後イーサリアムなどで作られ、ゲーム内でトークンのやりとりをするゲームが出てくるはずです。

では次にゲームにおけるトークンの発行主体についてです。

 

トークンの発行主体】

色々な可能性が考えられますが、大きく分けて

①一つのゲームの中だけで利用される独自トーク

②一つの企業が発行して、その企業に関連する複数のゲームで使える企業トークン(ミクシィトークン、任天堂トークン、ソニーが発行しプレステのゲーム全てで使えるプレステトークンなど)

③複数の企業が採用して、たくさんのゲームで使われるトーク

の3種類になるかと思います。

①では、そのゲームに人気が出て、取引量や取引総額が大きくなると、そのトークンの価値も一気に値上がりします。しかし、そのゲームから人が離れると逆に大きく値を下げるはずです(リスク大、リターン大)

②では、一つのゲームが当たったりこけたりしても、そのトークンが使われる複数のゲームでリスクが分散されていたり、その会社がこの先作るゲームへの信頼や期待によって価値が保たれたりすることも考えられ、①よりはリスクが減りそうです(リスク中、リターン中)

③では、②よりもさらに多くの企業やゲームでリスクが分散されることとなります(リスク小、リターン小)

ただ、現時点では完全に未開拓の市場なので①〜③のどれであってもリスク大、リターン大となるかと思います笑

ちなみに調べてみたところ、③を想定したイーサリアムベースのトークンはすでに売り出されていました(このトークンの信頼性や将来性を保証するものではありませんので、投資は自己責任でお願いします)

 

【今後のゲーム】

イーサリアムを使ったゲームは実はすでに何個か出てきており、今後も色々と出てくるものと思います。


そんな中で真っ先に流行りそうなものはカードゲームのようなものではないかと想像します。

遊戯王カードやマジックザギャザリングのようなものがスマホで出来るようになるということです。そんなもの今でも腐るほどある、と思うかもしれませんが、これまでと違うところはトークンの存在です。つまりに、スマホのゲーム内で獲得したカードをトークンを介して売買することが出来、その値段は需給関係で決まってきます。そして、そのトークンは法定通貨、つまり日本円などとも交換が可能なため、ゲーム内のレアカードが遊戯王カードのブルーアイズホワイトドラゴン(初期)と同じようなものになってくると思われます。

パズドラのようにモンスターのレア度と育成が組み合わさったゲームにおいては、レア度と育成具合によって市場での価格が決まってくるでしょう。

このあたりはわりとシンプルな発想ですし、実現も比較的しやすいかと思います。

 

そして、僕が想像するだけでワクワクしてしまうのはオープンワールドのゲームの中にトークンエコノミー、つまり小さな経済が生まれることです。

ここからは完全に僕の妄想になりますのでご容赦ください。

まず、そのゲームの世界では大きく分けて冒険者と生産者(のプレイヤー)が存在します。

冒険者側のプレイヤーは世界に散らばったダンジョンなどに出向き、敵を倒したり拾うなりしてアイテムを収集します。そのアイテムはレア度などを含めた需給関係によって値段が決まり、ゲーム内の市場でトークンとして売買出来ます。RPGに経済が絡んでくるような形ですね。

しかし、冒険者はあちこちを動き回っているとお腹が減ってくる(トルネコ風来のシレン方式)ので、冒険に食料を持っていく必要があり、その食料を生産者が作ります。

生産者側のプレイヤーは作物や動物の育成シミュレーションゲームを楽しみます。そして、その過程で出来た食べ物も、同じくゲーム内の市場でトークンを介して売買することが出来ます。

次に、冒険者はダンジョンへの移動コストを考え始めます。移動にかかる時間も短縮したいですし、なにより移動距離が長いと沢山食料を消費しなければいけません。そうなった時にゲーム内で移動に携わるプレイヤーも出てくるかもしれません。つまり、ゲーム内の乗り物(馬なりバイクなり)を購入(初期投資)して、それを使って冒険者を運ぶことで幾らかの運賃を得るような遊び方です。運賃はチャットやボイスチャットなどで交渉して決めることも出来そうです。

話をわかりやすくするために、冒険者と生産者にわけて考えましたが、生産者としてシミュレーションゲームを行い、そこで作った食料を持って冒険に出かける兼業農家になってもいいわけですよね。ほかにも冒険者が自分で乗り物を買い、乗り物での移動途中で同じ方向に向かうプレイヤーを拾って、送ってあげた代わりに運賃をもらう、なども考えられます。

そして、このようにゲーム内に小さな経済が生まれると、もっと多様なプレイの仕方も出てくるかもしれません。例えば、プレイヤーが多く集まるような街(や拠点)では、食料の需給関係が安定して一定の価格で売買されているけど、ダンジョンの奥地では食料を求めるプレイヤーに対し食料の供給が足りなくなるので、街よりも高い値段で食料が売買されることになります。そう考えるとこれまでのゲームにも存在した”ダンジョンの中で異様に高い値段でアイテムを売りつける謎の商人”の存在がスッと理解出来る気がしませんか?あれは、街で食料を仕入れ、敵に倒されるリスクを負いながら移動コストを支払ってダンジョンの奥地まで物を売りにやってきたプレイヤーそのものだったのです。そういった遊び方も可能になってきます。

このようなゲームを実現するには、おそらく死ぬほど繊細なゲームバランスが必要だと思います。例えば、食料は消費されて消えていくのに、冒険者が集めてくるアイテムの流通がずっと増え続けていくようではいけないので、武器や防具などが使用とともに壊れるようにしないといけないです。既にそういったゲームは沢山あるし、直近ではNINTENDO SWITCHゼルダなどもそうでしたが、プレイヤーの損得に直接関わってくるためバランスのシビアさはより求められそうです。

さらに言うと、冒険者側のRPGと生産者側のシミュレーションゲームとの間に面白さの差が大きくあると、食料の需給関係が崩れます。RPGが面白すぎて冒険者側のプレイヤーばかりが増えすぎると、食料の需要が供給を大きく上回り、食料の値段が上がって、「冒険者として1時間行動するのに食料代が600円かかる」みたいなことも起こり得ます。そうした時に、賢いプレイヤーは生産者側に回ってお金を稼ぎ、そういったところが見えていない若年層は冒険者にとどまって損をしてしまうかもしれません。このような難しさや課題は当然生まれてくるだろうなと思います。

 

【想像出来ることと課題】

・ここではゲームをプレイする前提で話をしてきましたが、トークンの投資としての利用価値はゲームをするしないに関係ないですよね。つまり、【トークンの発行主体】で触れたWAXを今購入している人は、これからWAXを使用したゲームが増えて、WAXの価値が上がると考えているわけです。例えば、今後日本の会社が自社のゲームで使うトークンを発行したような場合、それを使ったゲームがヒットするだろうと考えたならば、安い段階でトークンを掴んでみるというのも面白いかもしれません。(自己責任で)

しかし、そういった投資としての市場の動きがゲーム内の物の売買価格に影響してくることにもなります。面白いような、恐ろしいような話ではありますが。

・ここまでゲームのシステムとプレイヤーの損得が密接に結びついてくると、新しいパッチを適用したり、アップデートがされるたびにトークンの価値が変動することが考えられます。例えば、上の例でいうところの移動にかかわるプレイヤーが、移動手段として馬を購入し、冒険者を乗せて購入代を回収しようと考えていた矢先に、アップデートでバイクが登場して誰も馬に乗らなくなった、といったようなことが起こり得ます。世の中的には時々ある話ですが、それをゲームのプレイヤーがどこまで許容出来るかはわからないですね。

・日本の税制についてですが、現在、仮想通貨(及びトークン)の売買で生じた利益に対しては、雑所得として税金が課税されます。つまり、制度がこのまま変わらなければ、ゲーム内の物の売り買いであっても、そこで一定以上(年20万円以上)のお金を儲けた場合、プレイヤーは確定申告をする必要があります。これは普及に向けて凄く大きな課題、障壁となりそうですし、少なくとも今の制度のままではまともに普及しないように思えます。これは社会の仕組みが仮想通貨を受け入れた形で変わっていくのを待つしかないかもしれません。

・仮に税制がこういったゲームをある程度許容するように変わってきたとしたら、親の協力を得ながら、もしくは自分で税制について勉強しながらこれらのゲームをプレイする若年層も出てくるかと思います。そうなった時、ゲームを通して実際に損をしたり得をしたりしながら、生きた経済を体で学んだ若い人たちがどういう大人になっていくのかはすごく興味深いです。少なくとも起業意識は物凄く高まりそうに思えます。

・ゲームにお金が絡んでくると、これまではマイナーな職業だったプロゲーマーの社会的な立ち位置が変わってきて、大きな注目を集めるように思えます。また、さきほど想像したようなゲームの中でも集団で、組織的に利益をあげようとする人たちが出てきて、一般のゲームユーザーとの間でいざこざが発生するようなことがあるかもしれません。そして、これまでのオンラインゲームやスマホゲームですら社会問題になるほど熱中してしまう人が出ているのに、そこにお金が絡んできた時にどのようなことになるのかは想像も出来ません。加熱具合によっては規制の話なども当然出てくるだろうなとは思います。

 

【総括】

ここで書いたことが実際に実現するのか、絵に描いた餅になるのかはわかりません。

仮に実現したとしても、今から何年後になるのかもわからないですが、プロジェクトとして色んなところで少しずつ動いているようです。

ゲームの未来を考えた時、例えばVR/ARなんかがどう絡んでくるのか、など切り口や方向性は色々ありますし、ここで書いたこともそういった可能性のひとつとしてだろうとと思います。

色んなことが大きく変わるような時には面白さと恐ろしさが同時にやってきますが、必要以上に怖がっていても仕方がないので楽しみながら関心を持ってみていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

「ポジションを取る」ということ

今年の夏頃から、投資家というにはあまりにも未熟だけど銀行に眠らせていたお金を運用しはじめた。

31歳からというのは全然早くないので、ここで書くことも「何を今更」といった感じで読む人も沢山いるだろうけど、自分が今感じていることをまとめてみたいと思う。

 

とりあえず現状をざっくりと書くと、夏頃よりロボアドバイザーWealthNaviに入金し、国際分散投資をしている。現在、日本もアメリカも株価が上昇傾向にあり、運用成績的には年12%くらいといい感じなのだけど、これに関してはポートフォリオを全て自動で組んでくれるため自分が何かを勉強する必要もなく、ただ今の時代にうまく乗ってるだけ、という感覚だ。

 

そして、12月の中頃から話題の仮想通貨を買いはじめた。

仮想通貨を買うタイミングとしてはおそらく全然早いほうではない。(長期的にみた時、結果として「遅くはなかった」と思えたら嬉しいが)

もちろん何を買うかを考える上で色々調べたりはしたものの、痛感するのは「ポジションを取ってみる」ということの大切さだ。

仮想通貨の現状について簡単にまとめるとこういった感じになるだろうか

ビットコインも含め、ほぼ全ての仮想通貨は現時点において実用化のレベルには至っておらず、開発中のもの、ホワイトペーパーだけで製品がまだないもの、ただの詐欺、と様々な状態のものが混在している

②しかし、ブロックチェーンを中心とした核となる技術は将来的に様々な分野で応用でき、社会のインフラを支えるものとして機能するであろう、と考えられている

③現在の仮想通貨の値段はそういった期待も織り込んだものであり、ベンチャー投資に近い

④しかしながら、単に値動きの大きさに惹かれただけの投機マネーがかなりの部分を占めているのも事実

⑤それもあって、かつてないサイクルでバブルとバブル崩壊を繰り替えているような値動きになっている。12月末から1月頭にかけて過剰に暴騰し、その後暴落。ここ数日は一旦落ち着いたようにみえるが、今が底なのかは不明。

⑥2018年は2017年のようにあらゆる仮想通貨の価格が一様に上昇する状況は考えにくいが、きちんと実態の伴った仮想通貨は短期の値動きがどうであれ開発が進んでいき、世の中に広まっていくものと思われる。しかし、最終的に何が残るのかはまだわからず、後発の優れたものが今存在するものを追い抜いていくことも十分に考えられる。

 

といった感じだろうか。

少なくとも僕が買ったタイミングでは、メジャーなアルトコインでの短期的な大儲けが望める状況ではなく、僕自身もそれは期待していない。要は仮想通貨に対する現在の過剰な熱狂が終わったあとも、きちんと実用化に向けて進むものを見極めなくてはいけないわけだ。

自分の保有している仮想通貨の現状、好材料も悪材料(≒開発課題)も把握しなければいけないし、次々と新しいものが生まれたり既存のものも開発が進む中で、自分の保有しているものの優位性が保たれているかを常に確認しなければいけない。同時に初心者なので、テクニカルについても学ぶことが沢山ある。といったような感じなのだが、自分の身銭を切り、「ポジションを取る」ということが如何に物事に対する関心に繋がるのかということを痛感している。

それと同時に世の中に対する見方にも変化が出てきたように思う。新しい技術、モノ、サービスに対する関心が増し、それらが実用化されたり、流行ったりした時にどの程度世の中が変わるのか、世の中にどのくらい店舗が増えるのか、市場規模はどのくらいになるのか、自分の生活がどう変わるのかを考える機会がとても増えてきた。

これは田舎で毎日退屈していた自分にとってはとても刺激的で、未来に対する希望のようにも思えるものだ。

 

ついさきほど、twitterでこの画像を目にした。

ここ100年の間に起こった技術革新が世の中に定着し、5000万人に使用されるようになるまでに要した年月だそうだ。

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見ての通り、世の中が新しいものを受け入れ、変化していく速度は急激に加速していて今後もその傾向はさらに進んでいくのだろう。

何も考えずに生きていても自分の生活は変わっていくのだから、どうせなら新しい技術、モノ、サービスに早くから着目し、それが普及していく過程や世の中の変化を見つめながら、そこに幾らかの投資もしてみて、結果として幾ばくかの利益を得られるかもしれないならば、それはなかなか楽しいことなのかなと思っている。

投資のデビュー戦でこんなにもリスキーな値動きのものに関わるのはどうなのかとも思うが、数年経って思ったような結果が得られていなくても、この経験から何かを学べたら嬉しい。

 

 

私的年間ベストアルバム2017

【総括】

自分の好きな音楽の傾向としては、去年からの流れでこのリストに挙がるジャズやラテンの数が増え、そのぶんヒップホップやR&Bの名前が自然と挙がってこなかった。今年はどうやらそういう気分だったようだ。各音楽メディアの年間ベスト上位にヒップホップやR&Bがバンバン入っていて、時代のムードと自分との乖離がすこし心配にもなるが、まぁ音楽を楽しめてるなら別にいいかってことで無理くり納得させている。

ブログに年間ベストを書き始めて今年で4年目。自分が飽き性なこともあって、わずか4年の間に自分の聴く音楽の傾向もかなり変わってきていることがわかるし、今から更に5年後10年後に過去の自分を振り返るための記録として、毎年この面倒くさい作業を続けていけたらいいかなとは思っている。

一応去年一昨年のリンクを。

私的年間ベストアルバム2016 - 雨にぬれても

私的年間ベストアルバム2015 - 雨にぬれても

 

前置きは以上。

見てくれた人にとって、ほんの少しでも参考になったなら幸いだ。

 

 

25. Julian Lage & Chris Eldridge / Mount Royal

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ジャズギタリストのジュリアン・ラージと、パンチ・ブラザーズのメンバーでギタリストのクリス・エルドリッジによるギターデュオアルバム。二人の卓越したギターで安心して聴くことが出来るアメリカーナ。

Julian Lage & Chris Eldridge - Bone Collector - YouTube

 

24.  けもの / めたもるシティ

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シンガーソングライター青羊(あめ)のソロプロジェクト、けもの の2ndアルバム。

菊地成孔のレーベル、TABOOよりリリース。

日常にも町にもなんの変化も感じられない生活を送る田舎者の僕にとって、2020年に向けて開発が進む東京はまさしく”めたもるシティ”のように思われる。

3曲目の「PEACH」と7曲目「tO→Kio」がとくにお気に入り。

 

23. Jovino Santos Neto And André Mehmari / Guris

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アンドレ・メマーリとジョヴィーノ・サントス・ネトの連名作で、エルメート・パスコアル80歳の誕生日を祝うパスコアル・オマージュの本作。それぞれが様々な楽器を持ち替えて演奏している。

御大パスコアル本人もスペシャルゲストで3曲ほど参加している。使用楽器はもちろん「TEAKETTLE=ヤカン」だ。

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22. 小田朋美 / グッバイブルー

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2013年リリースの「シャーマン狩り」以来、4年ぶりとなる小田朋美の新作。

「シャーマン狩り」は僕にとって2013年のベスト級の作品であり、メーカーインフォ?に書かれた"才媛"という言葉がまったく嘘偽りないことを聴いた誰しもに痛感させる内容だったと思う。

そんな小田朋美の置かれている状況もここ4年の間に大きく変わっているようで、DC/PRGへの加入、ceroのサポートメンバーとしての活動、今引っ張りだこのドラマー石若駿らと結成したバンドCRCK/LCKSでの活動など、日本の音楽界の隠れた重要人物のようになっている。

さて、本作はピアノの弾き語りもしくはインスト(とチェロが加わる曲もある)で構成されている。前作の「シャーマン狩り」と比べると、ピアノが遠くのほうで鳴っているように録音やミックスがなされているとうだ。その分空間を感じられ、ボーカルが立って聴こえてくる。本作では、より歌を聴かせたいという意図があったのかもしれない。ちなみに一曲目の「あおい風」が一番好き。

余談だが、CRCK/LCKSの新譜「Lighter」収録の「傀儡」という曲は、曲中で小田さんが「好き」と50回くらい歌ってくれるので小田さんフリークにはご褒美だった。

 

21. Vijay Iyer Sextet / Far From Over 

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今年の音楽界の大きな出来事として、「ECM(及びECM New Series)のサブスク参入」が挙げられるかと思う。ジャズ(とクラシック、現代音楽)の最重要レーベルでありながら、これまで頑なにサブスクに参入してこなかったECMも「まずは聴いてもらうことが大事」という判断の元、保有するカタログの大部分を公開した。これによってECMがこれまで積み上げてきた物凄い質と量のお宝に容易にアクセス出来るようになったわけで、これまで「サブスクにはECMがないからね〜(だからまだCDを買わないと)」と言っていたジャズファン各位も、本当に音楽にお金を投じなくてもなんとかなる時代に突入した感がある。

さて、そんなわけでヴィジェイ・アイヤーの新作もサブスクで聴けてしまうのだ。

一聴するとECMらしくないハードな印象を受けるが、先鋭的でインテリ感溢れるところが気に入っている。

 

20. 岡田拓郎 / ノスタルジア

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2年前に解散したバンド、「森は生きている」の中心人物だった岡田拓郎のソロアルバム。

2017年現在のUSインディーシーンの現状はというと、人によって見方は違うかもしれないがひとまず成熟したというべきだろうか。では、日本の若手ミュージシャンの中で最も00年代から10年代にかけてのUSインディーを総括し、消化し、ただ表層をなぞるのでなく自身の音楽として昇華しようと試みているのは誰かというと、この人になるのではないだろうか。

Okada Takuro - Amorphae (Feat. Mifune Masaya) - YouTube

 

 

19. Thundercat / Drunk

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フライング・ロータスやカマシ・ワシントンの作品、ケンドリック・ラマーの「To Pimp a Butterfly」への参加など、西海岸のかっこいい音楽のクレジットに頻繁に名前があがっていたサンダーキャットことステファン・ブルーナーの新作。

フュージョンAOR、メロウなSOUL、シンセポップ風味など、様々な音楽が2〜3分単位で矢継ぎ早に移り変わっていくため、アルバム全体を一言で説明するのは困難だ。しかし、トータルとして聴いたときに不思議と散漫な印象がなく、まとまって感じられるのが本作の美点ではないかと個人的に思う。

Thundercat - 'Show You The Way (feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)' (Official Video) - YouTube

Thundercat - 'Tokyo' (Official Video) - YouTube

 

18. Dominic Miller / Silent Light

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長年スティングのサポートギタリストを務めているドミニク・ミラーのECMから出たソロ作品。

ECMからリリースされる音楽も様々だが、個人的な印象としてはリリースされる作品の多くが音の細部を味わうべき音楽であり、聴き手に集中力や緊張感を要求するものであるように感じている。

一部ベースやパーカッションが入る曲があるが、ほとんどドミニク・ミラーのギターが中心となっている本作。やはりECMなだけあって本当にギターの音が美しく録音されているのだが、(いい意味で)ながら聴きや流し聴きをしていても楽しめるような穏やかで優しい曲が並んでいる。心がざわざわする深夜などにヘッドホンで聴いていると本当に心が休まる思いがする。

Dominic Miller – Water (from the album Silent Light) - YouTube

 

17. 柴田聡子 / 愛の休日

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シンガーソングライターであり詩人の柴田聡子の4枚目のアルバム。

岸田繁プロデュース曲「遊んで暮らして」「ゆべし先輩」、山本精一プロデュース曲「リスが来た」を含む、全13曲収録。

柴田聡子の音楽の良さについて問われた時、やはり「詞」に依るところが大きいということに異論はさほどないのではないかと思う。もちろんいいメロディーがあってこその詞であることは間違いないのだが、日常の中に生まれる機微や屈託を柔らかな眼差しで拾い上げたような詞こそがこの人の音楽をオリジナルなものにしていると感じる。

その他の曲も素敵なものばかりだが、とりわけわずか2分40秒の中に素晴らしいポップスに宿る煌めきと感情の揺らぎが凝縮している「後悔」という曲が大好きだ。

柴田聡子「後悔」(Official Video ) - YouTube


16. Sam Amidon / The Following Mountain

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サム・アミドンはフォーク・ミュージシャンの両親のもとで幼少の頃からトラディショナルな音楽の教育を受けていたおり、そういった音楽に新たな解釈やスタイルを加えて独自なものとして蘇らせてきた。そのサム・アミドンのノンサッチからの3作目で、全て本人のオリジナル楽曲であり、サム・アミドンにとって新しい試みである。

ということだそうだ。

知ったかぶりをしても仕方がないので白状するが、このミュージシャンについてはこの作品で初めて知ったので、過去作なども聴いていない。

そんなわけで大したことは何も言えないのだが、フォーキーでありつつも音響的な拘りが強く感じられ、トラディショナルとモダンの折衷具合が見事だと感じた。

Sam Amidon - Juma Mountain - YouTube

 

15. Cornelius / Mellow Waves

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コーネリアスの「SENSUOUS」以来、11年ぶりとなるオリジナルアルバム。

先行配信された一曲目の「あなたがいるなら」は僕個人にとってとても大切な、2017年を彩ってくれた一曲として今後も記憶されていくだろうと思う。(個別に書いたブログ記事はこちら(「あなたがいるなら」

さて、本作の特徴としては、やはり小山田圭吾本人の歌モノ回帰であったろうと思う。

インタビューで「しばらく自分が歌うことをやってこなかった(ため本作では歌うことにした)」と語っていた小山田圭吾だが、「Point」「SENSUOUS」以降のコーネリアスのサウンドの上に歌を乗せる試みとして、やはりSalyu×Salyuなどのプロジェクトの中でかなりの実験が行われ、手応えを感じていたのではないかと思う。もちろん単純にボーカリストとしてみたとき、小山田圭吾Salyuほど歌が達者ではないのだろうが、自身のサウンドに歌(と言葉)をはめ込むセンスは本作でも十二分に感じられる。小山田圭吾の歌詞に対する考え方は「音楽とことば」という本で詳しく語られており、とても面白く読んだのでおすすめしたい。

本作に限らずだが、坂本慎太郎が詞を提供したコーネリアスの歌モノの魅力は本当にすごいものがあり、今後もぜひ継続して聴かせてほしいところだ。

余談だが、STUDIO COASTでのライブはとても素晴らしかった。

Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here" - YouTube

Cornelius - 『いつか / どこか』" Sometime / Someplace " - YouTube

 

  

14. ものんくる / 世界はここにしかないって上手に言って

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菊地成孔のレーベルTABOOからリリースされた ものんくる の3rdアルバム。

本作より、角田隆太とボーカルの吉田沙良の2名体制となっており、角田隆太はものんくるでの活動に力を入れるためにCRCK/LCKSを脱退している。

ちなみに角田隆太の父親はリュート奏者のつのだたかしで、父方の伯父に「空手バカ一代」を描いた漫画家のつのだじろうが、父方の叔父に歌手でドラマーのつのだ☆ひろがいるとのこと。(どうでもいい情報)

さて、1stアルバムでは6〜9分、2ndアルバムも5〜6分とポップスとしては長めの曲が多かったものんくるだが、本作では菊地成孔から「曲を短く」という指示があり、3〜4分程度の曲が多くなっている。

加えて、サウンドや歌詞も前々作、前作と比較すると、自分たちの生活範囲や手の届く身近な世界、感情を詩情ゆたかに描いているように感じられ、日常のサウンドトラックとして馴染みやすくなっているように感じられる。

ものんくる / ここにしかないって言って 【MV】 - YouTube

ものんくる / 空想飛行【MV】 - YouTube

 

13. Tigran Hamasyan / An Ancient Observer

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アルメニア出身のピアニスト、ティグラン・ハマシアンの新作。Nonesuch  Recordsからリリースした2枚目の作品で、声やドラム音、シンセなどが入っているが、ほとんどピアノソロといっていいような内容となっている。

ティグラン・ハマシアンの音楽について語られるとき、多くの場合アルメニアの伝統音楽が引き合い出される。本作も故郷のアルメニアでの何気ない生活からインスピレーションを得て制作されたとのこと。僕はそのあたりの音楽に全く明るくない上に、アルメニアという国の国民性、歴史、風土などについてもウィキペディアをさらっと読んだ程度にしか把握していないが、この音楽を聴いているとティグランの想像力で描かれたアルメニアを旅しているような気分になる。どことなく悲しみが根底あるような、しかし美しい国、そんな感じがする。実際のところは知りません。

 

Tigran Hamasyan - The Cave of Rebirth (Official Video) - YouTube

Tigran Hamasyan - Leninagone (Official Video) - YouTube

 

12. 公衆道徳 / 公衆道

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韓国のアーティスト、公衆道徳(すごい名前)による宅録作品で本国では2015年にリリースされているようだ。

Lampの染谷太陽さんの元に韓国のファンからこのCDが送られてきて、染谷さんがそれを気に入り、日本ではLampのレーベルBotanical Houseから今年リリースされたという流れだ。染谷さんが韓国のミュージシャンたちに公衆道徳のことを聞いてみたところ、みんな存在こそ知っていても顔や素性などはまったく知らず、本国盤のリリース元に問い合わせてようやく連絡が取れたというくらい謎の人物らしい。

内容はというと本人のメイン楽器がギターということもあって、ギターが各曲の中で大きな役割を果たしているのだが、その周りを微かな電子音やノイズ、コーラス、その他様々な楽器の音がコラージュのようの取り囲んでおり、曲自体もこちらの予想を裏切るような展開で進んでいくので、どことなく万華鏡を覗く時のような面白さがある。

ポップで、ストレンジで、無邪気で、アイディアに溢れていて、宅録オタクの音楽に対する情熱がつまっている、そんな作品に思える。

染谷さんによるインタビューもぜひ。

Botanical House — 公衆道徳 Interview (聞き手:Lamp / Botanical House 染谷大陽)...

 

11. Kamasi Washington / Harmony of Difference 

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自分でいうのもなんだが、世間的にみてそれなりに音楽が好きなほうであろう自分でも、3枚組のアルバム作品と真正面から向き合うには相当エネルギーが要る。音楽なら40分50分くらいのアルバムがちょうどいいし、映画も100分110分くらいできっちりまとまってるものが好きだし、漫画もせめて単行本10冊くらいでまとめてほしい。そんな人間だ。

カマシ・ワシントンの2015年リリースの前作「The Epic」は3枚組170分と凄まじいボリュームがあり、リリースされた年以降はあまりにヘヴィー過ぎて結局それほど聴かなかった。

本作は6曲計32分の組曲となっている。1〜5曲目で主題を提示し、それらの主題を使った6曲目、13分30秒とわりと長尺で壮大な「Truth」で〆られる。単純に各曲の主題が美しく、曲調にも緩急があって一本調子になっておらず、最後の「Truth」を聴き終えた時には何か大きな物語が完結したような感覚を覚える。たった32分で完結する、とても素晴らしくて内容の濃い映画を観たような感じだ。

 

一応最後の曲「Truth」のMVを貼るが、この作品に関しては特にアルバムを通して聴いてみてほしい。

Kamasi Washington - Truth - YouTube

  

10. Kart Rosenwinkel / CAIPI

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ジャズギタリスト、カート・ローゼンウィンケルの新作。

出る出る詐欺を繰り返し、10年かけてようやく完成した本作はブラジル音楽に対する憧憬が素直に出た一作。曲によってはプレイヤーを招いているが、カート・ローゼンウィンケル本人が各種ギター、ベース、ピアノ、ドラム、パーカッション、シンセなどの大部分を演奏している。

本作のリリースにあたって行われた来日公演では、ペドロ・マルティンスアントニオ・ロウレイロといったブラジルの若くて優秀なプレイヤーを招聘し、KURT ROSENWINKEL'S CAIPI BANDとして演奏している。

ミナス周辺の音楽にみられる浮遊感というか揺蕩うような印象もありつつ、技巧的なギターのフレーズが冴える一枚。

 

 

9. Fabian Almazan & Rhizome / Alcanza

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アメリカで活動するピアニスト/作曲家、ファビアン・アルマザンのボーカル+ピアノトリオ(+ゲストでギターのカミラ・メサ)に弦楽四重奏を加えたプロジェクトでの新作。本作はCDのリリースの予定はなく、配信のみとのこと。

ファビアン・アルマザンは、キューバ生まれで10歳の時に両親とともアメリカに亡命し、若い頃はピアノを習うお金にも苦労したようだ。その後、マンハッタン音楽院に進み、ジャズピアノと管弦楽法を学んでいる。クラシックにも精通しており、昨今のラージアンサンブルと呼ばれる音楽ほど大きな編成ではないものの、コンポジション主義の音楽であるという点では近いものが感じられる。

本作は、間にピアノ、ベース、ドラムのソロパート的な曲をそれぞれ一曲ずつ挟みながら、Alcanza Suiteという9つの組曲で構成されており、激しさと叙情性のバランスが素晴らしくて刺激的な作品だった。

 

8. Becca Stevens / Regina

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ベッカ・スティーヴンスの新作。

過去作と比べてエンジニアリングの比重がグッと増し、オーバーダビングで重ねられたボーカルのハーモニーは美しく、スケール感も大きくなった本作。いい意味でのメジャー感を獲得した作品のようにも思う。

個人的には彼女の最高傑作だと思うし、ジャズシーンという枠の中に閉じ込めず、ピッチフォークあたりがバーンとBest New Musicをあげてもいいような内容になっていると思う。

7月のCotton Clubでの来日公演にも足を運んでみた。4人の小編成ながらも豊かでかっこいいバンドサウンドを聴くことが出来て満足だった。特に、ジェイコブ・コリアーとの共作で本作にも収録されている「As」(スティーヴィー・ワンダーのカバー)をアンコールで聴かせてくれた時のチャランゴの柔らかな響きと歌声の清新さが忘れられない。  As (Stevie Wonder Cover) - YouTube

リリース当時はサブスクでも聴くことが出来た(ような記憶がある)が、2017年12月14日現在は聴けなくなっている。もっと多くの人に聴いてもらいたい作品だ。

Becca Stevens - Well Loved (Official Music Video) - YouTube

 

7. Hermeto Pascoal / No Mundo Dos Sons

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欧米の音楽的流行とはまったく無関係のところで今年はエルメート・パスコアルの年だったといえるのではないかと思う。自身のグループ名義としては15年ぶりとなる本作に加え、76年の未発表スタジオセッション「VIAJANDO COM O SOM 」、新作ビッグバンドアルバム「NATUREZA UNIVERSAL」がリリースされている。未発表音源はさておき、齢80を超えてオリジナルアルバムを二枚リリースする活力たるや……。

自分でいうのもなんだが、世間的にみてそれなりに音楽が好きなほうであろう自分でも、2枚組のアルバム作品と真正面から向き合(略

そのため、本作がアルバム2枚組90分弱だと聴いた時に若干「ウッ……」と思ったのは嘘偽らざる気持ちだ。しかしながら、各曲でマイルス、ピアソラトム・ジョビンエドゥ・ロボ、ロン・カーターチック・コリアなど、様々なミュージシャンにオマージュを捧げ、その対象の音楽的要素を取り込みながら全体としてはパスコアルの音楽としか言いようのないエネルギッシュ創造的な90分を堪能した後は、そんな気持ちは全く無くなっていた。「創作意欲が溢れに溢れて、捨てる曲がなくなり、この長さになってしまった」ということがありありと伝わってきたからだ。全盛期と比較しても遜色がないどころか、僕個人としては本作がパスコアルの最高傑作ではないかとも感じられた。恐るべき80歳だ。

No Mundo dos Sons | Hermeto Pascoal & Grupo | Álbum Completo | Selo Sesc - YouTube

 

 

6. Chris Thile / Thanks for Listening

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Punch Brothersのメンバーであり、マンドリン奏者のクリス・シーリのソロアルバム。ノンサッチ・レコーズからのリリースで、全編歌モノとなっている。

クリス・シーリは2016年からカントリー・ミュージックを中心としたアメリカの長寿バラエティ番組「プレーリー・ホーム・コンパニオン」の2代目パーソナリティを務めているらしく、毎週その番組で新曲を発表し、番組のハウスバンドと演奏しているらしい。その中から抜粋した10曲を再度レコーディングしたのが本作とのことだ。

クリス・シーリは幼少時よりキャリアをスタートし、ブルーグラス、フォーク、カントリー、ジャズ、クラシック、インディーロックなどの様々な音楽を消化して、ヨーヨー・マとバッハを演奏したアルバムと作ったり、(これも今年の作品だが)ブラッド・メルドーとのデュオアルバムと作ったり、パンチ・ブラザーズでブルーグラスに新しい風を吹き込んだり、と多岐に渡る活動を行ってきた。

もちろん本作もそういったものを積み上げてきた先にあるものだろう。ただ、本作はクリス・シーリのシンガーソングライター性のようなものが全面に出ているように感じられるし、ポップスとしての感触が強い作品だったように思う。

 

Chris Thile - Thank You, New York - YouTube

Chris Thile - Elephant in the Room (Official Audio) - YouTube

 

5. Nai Palm / Needle Paw

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オーストラリアのバンド、ハイエイタス・カイヨーテのVo&G、ネイ・パームのソロアルバム。

ボーカルは重ねているが、基本的にギターの弾き語りに近い内容となっており、ハイエイタス・カイヨーテのセルフカバーが6曲ほどと、ジミ・ヘンドリック、デヴィッド・ボウイレディオヘッドなどのカバーなども収録されている。

本作を聴いてハッキリしたことは、ネイ・パームこそがハイエイタス・カイヨーテというバンドの紛れもない中心人物だということだ。

収録されているハイエイタス・カイヨーテのセルフカバーを聴いてみても、バンドでの録音から音数が減っていることによる物足りなさなどは一切感じられず、むしろネイ・パームの突出した個性に圧倒される。

そして、ハイエイタス・カイヨーテの音楽が如何にメンバー間の民主主義の結果であり、最大公約数的に出来た音楽だったのかが浮き彫りになってしまうようにすら思われる。そのくらいネイ・パーム個人の音楽性の豊かさや懐の深さがギターの弾き語りに近いこの音楽に如実に現れていると感じる。

Nai Palm - 02 Atari - YouTube

 

4. bonobos / FOLK CITY FOLK .ep

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bonobosの6曲入りミニアルバム。

bonobosの存在についてはもう10年以上前から知っていたが、その頃はまだFishmansフォロワーのいちバンドという認識で観聴きしていた。そこから、あまり情報を追わなくなって何年も経ち、話題になっていた去年のアルバム「23区」でひさしぶりにちゃんと向きあったという流れがある。「23区」を聴いて、「ああ、僕の知らないところでこのバンド(というか中心人物のVo&Gの蔡さん)はしっかりと歩みを進めてきたんだな」と感じさせられた。

そして本作。最初にこの作品を聴いた時、6曲全てのあまりの完成度の高さに圧倒され、(ミニアルバムという手軽さがあるにしても)そのまま何周も何周も繰り返して聴いてしまった。現体制のバンドとしての充実ぶりもサウンドにそのまま現れていると感じる。

1曲目の「POETRY & FLOWERS」の歌詞に「bnbsは今が最高」とある。本当にその通りだと思う。この流れで作られる次のフルアルバムが本当に楽しみだ。

bonobos - Gospel In Terminal - YouTube

 

 

3. Alexandre Andrés / Macieiras

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ブラジル・ミナス新世代の顔役の一人であるアレシャンドリ・アンドレスの4thアルバム。前作に引き続き、全編インストのアルバムでアレシャンドリはフルートを中心に一部ギターも担当している。アンドレ・メマーリ、ジョアナ・ケイロスアントニオ・ロウレイロといった、ミナス界隈の有名どころも一曲ずつゲスト参加している。

今年は本作にもピアノとアコーディオンで参加しているハファエル・マルチニと共に来日し、くるり主催の京都音博やその他数カ所で公演を行っているが、ライブを観た人たちから「素晴らしかった」という声が多く聴かれ、とても羨ましかった。

これまで僕はアレシャンドリ・アンドレスをマルチプレイヤーのように思い込んでおり、実際のところは圧倒的にフルート奏者なのだなということがようやくわかってきた。この人のフルートは本当に表現力豊かで素晴らしい。

01 - Haru (Alexandre Andrés) - YouTube

04 - O Gafanhoto (Alexandre Andrés) - YouTube

 

余談だが、エグベルト・ジスモンチとも何度か共演しているようで、ジスモンチの代表曲のひとつ「Palhaco」を一緒に演奏している今年の動画も本当に惚れ惚れする演奏で素晴らしかった。この動画が700回くらいしか再生されていないのは世界七不思議のひとつ。

Alexandre Andrés Doutorado (2017) - YouTube

    

2. björk / Utopia

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前作の「Vulnicura」から2年半ぶりのリリースとなる本作。

前作は、パートナーとの離別などの出来事がコンセプトとなっていたこともあり、とてもパーソナルで内省的な印象を受けた。個人的には好きな作品ではあったのだが、Arcaとのコラボも一部の曲にとどまり、少し物足りなさを感じたのも事実だ。

そして本作だが、Arcaの全面プロデュースということで期待して聴いた一曲目「Arisen My Senses」から本当に驚かされた。「ユートピア」というタイトルが示す本作のコンセプトとArcaの音楽がこの上なく噛み合った凄まじい曲のように感じられた。

その以降の曲も、本作のために結成され、ビョーク自身がアレンジと指揮を担当したという女子12名のフルート・オーケストラが奏でる柔らかい木管の響きを全面に出した曲が並んでいる。

まず、ビョーク自身の考えたコンセプトと彼女の想像力が素晴らしかったのは間違いのないことだが、新しい引き出しを解放したかのようにビョークのビジョンを最高の形で実現したArcaにも賞賛を送りたい。

理想郷にフルートの花が美しく、そしてどこか悲しく狂い咲いている、そんなアルバムに思える。

björk: utopia - YouTube

 

1. 伊藤ゴロー アンサンブル / アーキテクト・ジョビン

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トム・ジョビンことアントニオ・カルロス・ジョビンの生誕90周年に合わせ、naomi&goroでの活動や原田知世のプロデュースでも知られる伊藤ゴローによって制作されたトリビュート・アルバム。

コンセプトとしては、「ドビュッシーショパン、サティなどのクラシックにも影響を受けていたジョビンのクラシカルな一面にフォーカスする」というもの。そういったコンセプトもあり、ジョビン本人の音楽と比べて室内楽的な側面が強く出ているように感じられる。

本作の特徴として、曲そのものの良さもさることながら、録音の美しさが際立っていることが挙げられるように思う。ストリングスやギターの柔らかな響き、ピアノの抑制の効いた鳴り、そういったものから感じられる徹底した美意識が作品の美しさに直結しており、作品にメロディーやハーモニーだけではなく音響的な悦びを付与しているように感じられる。

本作を聴いて、改めてじっくりとジョビン本人の作品にも向き合ってみた。ボサノヴァ創始者としてキャリアのスタートから晩年にいたるまでの作品を、本人の人生の浮き沈みを含めてじっくり味わう機会をあらためて与えてくれたことにも感謝したい。

【インタヴュー&レコーディング・レポート】伊藤ゴロー最新作『アーキテクト・ジョビン』が伝えるボサノヴァの巨匠が残したクラシカルな足跡 - ハイレゾ音源配信サイト【e-onkyo music】

 

音楽史観について

先日、「100年のジャズを聴く」という本について、

「ジャズの「正史」はひっくり返されてます。「頑固なジャズおやじ」は読んではいけない。これは最近ジャズを聴きだした、これからジャズを聴いていこうという人のための本です」

という読者のレビューがネット上にあがり、そのレビューを著者3人のうちの一人がtwitterでRTして話題になっていた。

僕も本自体は未読ながらそのレビューを面白く読んだのだけど、それについて、僕がtwitterでフォローしており、長くジャズを聴いているであろう方(仮にA氏とする)が「ジャズの正史ってなに?」「無用な世代間の分断を生まないでほしい」と憤っていた。

そこでその件について少し考え、自分の言葉で拙いなりにまとめてみたいと思う。

 

例えば、40年前に制定されて、その時代においては好意的に受け止められた法律があるとする。その法律が40年という時間を重ねる中で、時代にそぐわなくなったり、運用のされ方に変化が生じて好ましくないものになってしまう、というようなことは世の中において当たり前に起きている。歴史上のとある出来事がどういう意味を持つのかは、それが起こったその瞬間に確定するものではなく、時間とともに変容していく。昨今の特定秘密保護法のようなものも、10年20年経った時にどういった意味を持つ法律として機能しているのかはまだわからない。

つまるところ「歴史」というものは、「いつどこで何が起きた(うまれた)」という時間を経ても変わることのない”出来事”と、時間の経過とともに意味合いに変化が生じてくる”出来事の意味合い”を、ある時代の視点から切り取ったものに過ぎないだろう。

これは音楽に関してもそのままあてはまり、「いつどこで発表された」という出来事としての作品と、時間の経過ととも変化が生じてくる作品の意味合いを、その時代時代の視点、あるいは個人の視点から切り取ったものがその時代の、あるいはその人にとって音楽史観となる。

日本においては1950年代くらいから評論家の手によってジャズの歴史に関する本が出版されているようだ。おそらく、最初のレビューに出てきた”ジャズの「正史」”というものが何を指していたかというと、そういった過去の本や評論家の口で語られ、比較的広く普及した「当時の視点で切り取ったジャズの歴史」ということになるのだろう。しかしながら、作品の持つ意味合いが時間とともに移ろっていくものである以上、「正史」という言葉を選んだのは正しくなかったのではないかと思う。

さて、ここ数年、日本において2010年代の視点から新しいジャズの歴史観を描くような試みが行われている。若く優秀なミュージシャンたちが作る新しい音楽、そしてそのミュージシャンたちが参照し、新たな意味を帯びた過去の音楽を現代の視点から捉え直すようなその試みは僕のような若い(といっても既に31歳だが)人間からみると非常にダイナミックで価値のあるものに思える。

「過去の評論家が描いた歴史観や、自分の中で更新がとまった歴史観のまま、上から目線で新しいものを否定する」というステレオタイプなイメージの「頑固なジャズおやじ」が実際にどの程度いるのかははっきりとわからない。

ただ、A氏のようにずっといちリスナーとしてジャズを聴き続け、自分の耳で自分の中のジャズ史観を更新してきた人にとっては、先に書いた新しい試みと必ずしも意見の一致をみるわけではないだろうし、それは仕方のないことだとも思う。そういった人たちを「頑固なジャズおやじ」と呼んで無用な断絶を生んでしまうのは本当に意味のないことのように思える。