エグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)について
2012年頃からの再発や初CD化を機に聴きはじめたブラジルのミュージシャンで、主にピアノと多弦ギターを扱うエグベルト・ジスモンチ(Egberto Gismonti)について、浅学ではありますが自分のため記録の意味合いも含めて少し書いてみたいと思います。
ジスモンチには主にECMというジャズ/クラシックレーベルからリリースされた作品と、(ブラジル)EMIからリリースされた作品があります。
ECMをご存知の方はわかると思いますが、ECMからの作品はそのレーベルカラーに沿ったアコースティックな内容のものがメインになっています。
ではEMIからの作品はどうかと言うと、70年代半ばのジャズロック・プログレっぽいアルバムであったり、80年代のシンセサウンドを大胆に導入したアルバムであったりと、その当時の新しい音楽の潮流も取り入れていて、ECMから出した作品とは全く別の一面が見えてきます。
ECM/EMIの作品に通して言えることは、幼少からのクラシック教育をベースとした高い演奏能力と作曲能力が前提にあるため、スタイルの変化があろうとも高い水準のクオリティがどの作品にも備わっていることであろうと思います。
そのため、クラシックやジャズが好きでECMの諸作を聴く人、プログレなどのロック色のある音楽が好きで辺境プログレを聴く感覚でその手の作品を聴く人、エレクトロニック・ミュージックが好きでテクノの走りを聴く感覚でその手の作品を聴く人、とそれぞれの趣味・趣向によって”ジスモンチの最高傑作”についての意見が分かれるようです。
今更ジスモンチに対する再評価も何もあったもんじゃないとは思いますが、近年また注目を集め始めているジャズシーン、<Brasil 1000>による廉価再発で身近になったブラジル音楽、これらに関心がある人にとっても、ジスモンチの作品はとても刺激的なものだろうと思います。
(余談ですが、某JTNCに載っていたFred Hersch×Julian Rageの2013年のデュオアルバム「Free Flying」の中にもジスモンチに捧げられた曲(Free Flying)があります。)
僕も全作品を聴けたわけではないですが、現時点で好きなアルバム10枚を選んでみました。Youtubeに丸々アップされているアルバムも沢山あるので、もし興味を持たれた方が居ましたら是非色々と聴いてみてください。
また、ジスモンチの代表的な曲は複数のアルバムに様々なアレンジで録音されているので、気に入った曲の色々なバージョンを聴き比べるのもお薦めです。
1. Charlie Haden,Egberto Gismonti「In Montreal」ECM 2001
ベーシストのチャーリー・ヘイデンは、色んなアーティストとのデュオアルバムを残しているのですが、本作はジスモンチ(ギターまたはピアノ)とのデュオライブを収めたものです。
収録されている9曲のうち7曲がジスモンチの曲で、ECMの歴史の中でも傑作と呼んでいいのではないかと思います。
Charlie Haden & Egberto Gismonti - Palhaco (Live in Montreal) - YouTube
Frevo - Egberto Gismonti Charlie Haden - YouTube
2. Egberto Gismonti「Cidade Coraoção(心の街)」EMI 1983
シンセを導入したドリーミーでファンタジックな作品。
長男の誕生とともに作り始めた子供シリーズ3部作の三作目。
Egberto Gismonti - Realejo - YouTube
Egberto Gismonti - Fazendo Arte - YouTube
3. Egberto Gismonti 「Alma(アルマ)」EMI (ECM盤は1986)
ジスモンチの(ほぼ)ソロピアノアルバムです。(裏で若干シンセが鳴ってたりしますが…)
ECMからも同名タイトルのソロピアノアルバムが出ているのですが、今回選んだのはEMI盤です。
ECM盤(13曲収録)とEMI盤(9曲収録)では収録曲数に違いがあり、代表曲であろう「7 Aneis」もECM盤のみに入っているのですが、EMI盤のほうが音がいいので個人的にはこっちの方が好きです。(両方聴き比べると尚良し、ということで…)
Egberto Gismonti - Baião Malandro - YouTube
Egberto Gismonti - Loro - YouTube
4. Egberto Gismonti「Em Familia(エン・ファミーリア)」EMI 1981
前述の子供シリーズ3部作の一作目。
ジャケットの男の子が、誕生した息子のブランキーニョくんで、この子に宛てた曲も収録されています。
本作もEMI録音ですが、他のEMI作品に見られるような(いい意味での)やり過ぎ感はあまりなく、ECM側のリスナーにとっても、スッと入りやすいアルバムになっている気がします。
Egberto Gismonti - Lôro - YouTube
EGBERTO GISMONTI - Branquinho - YouTube
5. Egberto Gismonti 「Carmo(カルモ)」EMI 1977
全部の曲がそうだというわけではないですが、トータルでみるとファンク色が強い曲の印象が強く残る作品に思います。
Egberto Gismonti - Baião Malandro - YouTube
Raga - Egberto Gismonti - YouTube
中期以降はインスト曲が多いイメージのですジスモンチですが、本作にはボーカル曲もたくさん入っています。
Egberto Gismonti - FELIZ ANO NOVO
6. Egberto Gismonti Group「Infancia(インファンシア)」ECM 1990
ジスモンチにNando Carneiro(guitar, synthesizer)、Zeca Assumpção(double-bass)、Jacques Morelenbaum(Cello)を加えた4人グループでのアルバム。
チェロのジャキス・モレレンバウムは、日本では坂本龍一や伊藤ゴローとの共作で名前が知られているのではないでしょうか?
代表曲であろう「7 Aneis(7つの指輪)」ですが、ピアノソロ以外のアレンジで音源になっているものだと本作に収録されたものが今のところ一番好きです。
Egberto Gismonti Group - 7 Anéis - YouTube
Méninas (E. GISMONTI ).wmv - YouTube
7. Egberto Gismonti「Circense(シルセンシ)」EMI 1980
「サーカス」をテーマにしたアルバム。
インド人ヴァイオリン奏者のL.シャンカルをフィーチャーしたの2曲目「Cego Aderaldo」であったり、ブラジルのルーツミュージックからのインスパイアされたような曲が並び、トータルでどことなく多国籍感があります。
Egberto Gismonti - Karate - YouTube
Egberto Gismonti - Cego Aderaldo - YouTube
Egberto Gismonti - Ta boa santa - YouTube
8. Egberto Gismonti 「Coracoes Futuristas(未来派の心臓)」EMI 1976
ジャズロック・プログレ的な曲の印象が強い一枚で、そっちの音楽が好きな人には強く訴求するのではないかと思います。
これをベストに挙げる人も結構いるようで、それもわかる気がします。
Egberto Gismonti - Dança Das Cabeças (1976) - YouTube
Egberto Gismonti - Baião Do Acordar (1976) - YouTube
9. Egberto Gismonti「Sonho 70(ソーニョ70)」Polydor 1970
ジスモンチの2ndアルバムで、EMI、ECM以前のポリドールからのリリース。
豪華なオーケストレーションに妻であるドゥルシ・ヌネスのボーカルも乗ったブラジリアンポップス的感触の初期名作。
Egberto Gismonti Sonho 70 Ciclone - YouTube
Egberto Gismonti-O mercador de serpentes. - YouTube
10. Egrbeto Gismonti「Trem Caipara(トレム・カイピーラ)」EMI 1985
ジスモンチによるブラジルの作曲家ヴィラ=ロボスのカバーアルバム(チリのリカルド・ヴィラロボスではないですよ…念のため…)
ブラジル風バッハならぬ、ジスモンチ風ヴィラ=ロボスといった感じでしょうか?
ジスモンチのデュスコグラフィの中ではおそらく最もエレクトロニックミュージック寄りで、かなりの変わり種です。
DJ Shhhhhさんもプレイすることがあるらしい。(大阪のNEWTONE RECORDSさん情報)
Egberto Gismonti - Bachiana Nº5 - YouTube
Egberto Gismonti - Cantiga - YouTube
ここから漏れたものの中にも、
2016年4月にジスモンチとのデュオコンサートを控えていて同年3月に亡くなったブラジルのブラジルのパーカッショニスト、ナナ・ヴァスコンセロスとのデュオアルバム
「Danca Das Cabecas(輝く水)ECM」1977
「Duas Vozes(ふたつの声)ECM」1985 の2作や
前述のジスモンチとチャーリー・ヘイデンの2人に、ECMの顔役サックスプレイヤーであるヤン・ガルバレクを加えたトリオ形式のアルバム、
「Magico(マジコ)ECM 」1980
などの世評の高そうな作品もありますので興味があれば是非。