私的年間ベストアルバム2015
今年のリスニングの傾向を総括すると、高いプレイアビリティを前提とした、心の深いところに作用するような抒情的な何かを感じられる音楽に惹かれた一年だった。
そういう意味において、クラシック音楽とクラシックの教育をベースに持つ音楽家の作品がより身近に感じられるようになったのも今年の大きな収穫だったように思う。
もちろん、去年から続くポップス、ジャズへの興味も継続している。
今年はApple Musicなどのサブスクリプション型音楽配信サービスが日本でもスタートし、新譜も含め、様々な音楽を容易に聴けるようになった。
気になった作品を手当たり次第にノンストレスで全編聴けてしまうことに対する罪悪感もありつつ、リスニング環境の大きな変化に対する喜びもあった。しかしながら、「1時間の音楽を聴くのに1時間かかる」という当たり前の現実が歯止めになって、まだまだ聴きもらした作品もあるんだろうなというのが実感である。
ただ、気になるのはやはり音楽家の生活である。作品からの収入で生活することが更に難しくなることは容易に予想される。
「本当に気に入った作品にはきちんとお金を落とす」という態度だけは、大好きな音楽文化を守っていくという意味で忘れずにいたい。(真面目か)
しかし、OPNもArcaもGrimesもKelelaもRustieもFloating PointsもTame ImpalaもJamie xxもAlabama Shakesも聴いた上で、それらを一つ入れていないのは明らかに時代についていけてない感じが…。
30. ウワノソラ'67 / Portrait in Rock 'n' Roll
ウワノソラ'67 - 年上ボーイフレンド - YouTube
ナイアガラのファンであることを全く隠そうとしない自主制作の一枚。
人によっては退嬰的と受け取る可能性があるほど、本当にナイアガラなのである。
しかし、間違いなく赤字になるであろう自主制作で本当に好きなことをやった感じは伝わってきて、個人的には大変可愛らしく好ましい気持ちになる作品だった。
一般のCDのような流通に乗っていないため、ネットで直接買うか、扱っているレコード屋で買う必要がある。
29 Snarky Puppy & Metropole Orkest/ Sylva
Jazz〜フュージョンやダンスミュージックまでを柔軟に取り入れたユニットのメジャーデビュー盤であり、様々なアーティストとコラボしているMetropole Orkestとの共作。
ライブ録音のようで、曲終わりには拍手が聴こえる。
オーケストレーションが厚く乗っている曲が多い関係か、youtubeなどで観られるライブ映像などと比べ、比較的聴かせる曲が多くなっている印象。
28. ペトロールズ / Renaissance
東京事変の浮雲こと長岡亮介のバンドといて、存在自体は10年近く前から知っていたのだが、ちゃんと聴いたのは本作が初めてだった。
ギターを弾いてる時の長岡氏には、いつも抱かれたいと思ってしまう。
「雨」、名曲過ぎますね。
しかしながら、三角のパッケージの収納の不便さったらない。
27. Kamasi Washington / The Epic
Kamasi Washington - 'Change of the Guard' - YouTube
スピリチュアルジャズが音の厚みを盛り盛りにして現代に蘇り、凄い熱量で迫ってくる。しかも3枚組173分で、牛丼!カツ丼!親子丼!と言ったような圧倒的ボリューム感。通して聴くと若干胃もたれしそうである。(こんなことを宮本浩次に言おうものなら殴られそうだ)
ジャズに関心の薄いピッチフォークが8.6点とBest New Musicをつけた事も記憶に新しい。
来日公演の評判は上々だったようだ。この音楽は、生で体感したらもっと刺激的に聴こえるのかもしれない。
26. OMSB / Think Good
OMSB "黒帯 (Black Belt Remix)" - YouTube
SIMI LABのOMSBの2ndアルバム。
ネガティブとポジティブを行き来しながら、それでも前を向く意志を感じる作品。
「誰かにとっての最高でも 誰かにとってのクソ野郎
誰にも合わせるつもりはないが 実は誰にも嫌われたくないんだ」
わかり過ぎた。
25. Bill laurance / Swift
Bill Laurance - Swift (Swift) - YouTube
Sanrky Puppyのキーボード/ピアノ奏者の2ndアルバム。
ジャズやクラシックが持つ耽美主義的な一面を、グルーヴ感のあるドラムやエレクトロニックミュージック的なビートで程良く中和したようなバランスの曲が多い。
前者の資質をより強く押し出したら、この先ECMからのリリースも有り得るのかな、という印象を持った。
24. Donnie Trumpet & The Social Experiment / Surf
Donnie Trumpet & the Social Experiment - Sunday Candy "Short Film" - YouTube
チャンス・ザ・ラッパー参加のバンド「Social Experiment」のフリー・ダウンロードアルバム。
ゲストにエリカ・バドゥ、ジャネル・モネイ、BJ・ザ・シカゴ・キッド、ジェレマイ、ジェシー・ボイキンス三世、J・コール、B.o.B、バスタ・ライムス、ビッグ・ショーンなどが参加している。
(エリカ・バドゥ、ジャネル・モネイあたりは流石にわかるけれど)正直、このあたりの音楽にそこまで明るくないので、どのくらい豪華なのかはピンと来ていない。(汗)
本作やThe Internet、Kendrick Lamarの新譜、Brainfeederの最近の傾向を見るとR&BやHiphopの生音化が加速してる気がする。今後も楽しみ。
23. bird / Lush
2006年の「BREATH」以来となる冨田恵一プロデュースの作品。
「Jazz The New Chapter的な新譜に刺激を受けた冨田さん(以下、トミタン)がトミタンなりにそれらの音楽を消化したポップスを作ったらこうなった」という感じ。
生楽器による流麗なアレンジの印象が強い(ように思う)トミタンワークスだが、本作ではシンセサウンドが目立ち、若干いつものイメージとは異なる出来にも思われる。
聴けば聴くほど味が出てきそう…な気もするが、現時点ではこの位置。
22. 一十三十一 / THE MEMORY HOTEL
一十三十一「Labyrinth ~風の街で~」MV - YouTube
架空のホテルを舞台とした「砂漠とミステリー」をテーマにして制作された本作。
CITY DIVE以降の現実世界を世界をテーマにした一連の作品とサウンドにおいては延長線上にありつつも、更に大人っぽさや落ち着きが増したような、ほんの少し違う印象を受けた。
しかし、毎回毎回間違いない作品をリリースしてくれてはいるが、そろそろまた新しい一十三十一も聴いてみたいという気持ちもないわけではない。人間とはなんと贅沢な生き物なのだろう…。
21. cero / Obscure Ride
cero / Orphans【OFFICIAL MUSIC VIDEO】 - YouTube
リリース当時、「ceroがブラックミュージックに接近した」と盛り上がったのが印象深い本作。
ディアンジェロをもろにパク…オマージュした1曲目で自らを「Replica」と名乗っているのも潔くて気持ちが良かった。
「Summer SoulをBGMにして彼女と夏のドライブをしたい」なんていう去年の一十三十一のアルバムで言ってたようなことを今年も口にしておきながら、結果はまぁ聞くまでもない感じでござんした。
確かに今聴いてもいいアルバムだと思うのだけど、夏を過ぎてからこのアルバムを聴くことがあまりなかったなというのが正直なところ。
きっと、僕が20代前半で聴いていたら人生にもっと深く関わる一枚になっていたのかも、という気がしなくもない。
20. Chassol / Big Sun
Chassol - Birds, Pt. I - YouTube
カリブ、マルティニークをルーツに持つのフランス人 ピアニスト/ 作曲家 。
本作はシャソールの出身地であるアンティル諸島でフィールドレコーディングで採集した話し声や雑踏、鳥の鳴き声などを編集、ループさせ、そこに演奏を重ねていく、といったスタイルの作品。
言葉にするとたったこれだけのことなのだが、アントニオ・ローレイロやアンドレ・メマーリのような南米の有機的な音楽にも似た印象を受ける。
19. 三宅純 / 星ノ玉ノ緒
JUN MIYAKE-HER EXTRA EYEBALLS - YouTube
93年にリリースされた三宅純の初期の名作のリマスター。手がけたのは坂本龍一の仕事なども多く手がけているオノ・セイゲン。作品の内容的にはもっと上位でもいいのだけど、リマスター盤なのでこのあたりに。
アマゾンでは、CDの内容紹介に「CM音楽の作家として有名な三宅純」とあるが、三宅純の音楽を聴いたことはあっても、名前を知っている日本人は僅かなのではないだろうか?
本来なら巨匠クラスの評価を受けていてもいい作家なように思う。
18. Benny Sings / Studio
Benny Sings - Straight Lines (Official Audio) - YouTube
「Benny Sings」 という名前はクラブジャズが流行っていた頃に耳にしていた。(JAZZANOVAのレーベルSonar Kollektivから2ndアルバムを出している)
その後、僕自身とクラブジャズ的な音楽との間に距離が生まれ、なんとなくそういうイメージを持っていたBenny Singsもしっかり聴かずにここまできていた。
本作のリリースで久しぶり名前を耳にし、興味本位で聴いてみたところ、あまりにも真っ当で風通しのいいポップス具合に驚いた。
調べてみると、本人の無人島10枚が見つかった。なるほど、初めからクラブジャズの文脈に乗せるようなアーティストではなかったのだな、と合点がいった。(クラブジャズというムーブメント自体を否定するつもりはない)
結局、僕自身が「ジャンル」に振り回されて聴かず嫌いをしていたというだけの話である。本当に猛省した。
17. 入江陽 / 仕事
入江陽 - 鎌倉 [duet with 池田智子(Shiggy Jr.)] - YouTube
医科大学を卒業し、医師としての研修を中断して音楽の世界という茨の道に飛び込んだ入江陽。ご両親の深いため息が聞こえて来るような経歴だ。(余計なお世話)
ブラックミュージックを消化したポップスという点では、話題になったceroの新譜と同じではあるが、その消化の仕方において、入江陽のセンスが一枚上回ったように僕は感じた。癖になる一枚。
16. 中納良恵 / 窓景
中納良恵(EGO-WRAPPIN')が「ソレイユ」以来、7年ぶりにリリースしたソロアルバム。
今年1月にリリースされていたが、僕のtwitterのTL上ではあまり話題にしていなかった。
しかし、サマソニで観る機会がありそうということで本作を聴いてみたら想像した以上に素晴らしかった。中納良恵という年齢を重ねた(しかし、情熱的な)シンガーソングライターが持つEGO-WRAPPIN'とはまた別の世界がある作品だった。
そして、サマソニ2日目のライブ。この日のベストアクトは、全てを持っていったD'で揺るがないが、中納良恵のパフォーマンスは個人的に裏ベストアクトと言えるものだった。
だが、その場にそれほど多くの人がいたわけではない。むしろ、客入りはまばらだった。おそらく中納良恵というアーティストのファンが、EGO-WRAPPIN'についてる女性ファンで固定されているのだろうということは想像に難くない。
全体を通して聴いた時にルーツとして感じるのはやはりジャズであろうが、(上に貼ったMVのような)荒井由美ライクなニュー・ミュージックもあれば、音響面からアプローチしたような曲もあり、一口に語りきれない内容のアルバムである。
これは僕個人の感想だが、男女問わず、この作品が刺さる層はもっと広く存在するのではないかという気がしてならない。
とりあえず聴いてみてほしい一枚だ。
15. Hiatus Kaiyote / Choose Your Weapon
Hiatus Kaiyote - Breathing Underwater - YouTube
「ロバート・グラスパー以降」、「Brainfeederとの同時代性」を感じるオーストラリア産ソウル・ミュージック。訛ったドラムに乗るネイ・パームのネオソウルディーバ的なボーカルがハマっている。
JTNC3のインタビューを読むと、様々な環境から集まったメンバーそれぞれがアイディアを出し合って制作しているらしい。
オーストラリアというこの手の音楽の中心地から離れた場所でありながら、アメリカの大御所から若手有望株にまできちんとフックアップされているのは英語圏という優位性によるところもあるのだろうか。
日本の若手からも世界で戦えるグループが出てくることを期待したい。
14. 石若駿 / Cleanup
ドラマーとしてのスキルについては恐らく誰もが認めるところと思うが、作曲に関しては全くの未知数だったため若干の不安もあったが全くの杞憂だったようだ。
ストレートアヘッドな曲からロック色のあるダイナミックな曲、情感溢れる曲とバリーションは様々だが、全体を通して醸し出される印象が硬派すぎるくらい硬派で痺れた。そして何より、どの曲も次から次へと格好いいドラムのフレーズが登場し、耳を奪われた。
買ったばかりでまだ聴き込めていないので、もっとじっくり楽しんでいきたい。
13. 三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza / 三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza
『三枝伸太郎 Orquesta de la Esperanza』 Peregrinación - YouTube
クラシカルなタンゴをベースにした室内楽。
タンゴに関してはピアソラしかまともに聴いていないといった具合に全然明るくない僕にとっては、時に悲しく、時に穏やかに謳う只々美しい音楽だった。
現在におけるタンゴというのは、日本に限らず他の国においても、クラシックの教育を受けた人が演奏する事が多いようだ。このオーケストラも、リーダーの三枝伸太郎を含め、大体がクラシックの教育を受けたメンバーで若手実力派奏者で構成されている。
Vo.として小田朋美嬢も参加しており、また小田朋美のデビューアルバムに参加していた奏者も本作に参加している。
三枝伸太郎、小田朋美、(後ほど出てくるが)挾間美帆は、共に今年29歳になる同い年であり、それぞれが大学でクラシックの教育を受け、現在、タンゴを基調とした室内楽、クラシカルな土台を感じさせるポップス(?)、ラージアンサンブルのジャズ、とそれぞれに素晴らしい音楽に取り組んでいる。
思えば、古川麦や今引っ張りだこのドラマー、石若駿も藝大卒だ。
単純に僕の音楽の趣味が変わってきた影響なのか、最近の音楽大学の風土が変わってきているといったような現象があるのかはわからないが、今、きちんとした音楽教育を受けてきた若い人の音楽がみな一様に面白い。
12. Sufjan Stevens / Carrie & Lowell
Sufjan Stevens, "Should Have Known Better" (Official Audio) - YouTube
本作のタイトルは、亡き母と(スフィアン先生に様々な音楽を教えてくれた)義父の名前からきており、スフィアン先生という人間を形作っている極私的な体験から出来た非常にパーソナルなアルバムのようだ。
ドラムスやストリングも使用されず、過去作と比べても本作はかなり音数が抑えられている。しかしながら、聴感上の充実感は完全に保障されており、そのあたりは流石としかいいようがない。
11. 服部峻 / MOON
Takashi Hattori - Old & New - YouTube
twitterで菊地成孔による激賞の記事と「孤高の天才」という触れ込みの記事、さらにはエレキングがほぼ同時期に流れてきて、思わず釣られてしまった。(ちょろい…)
しかし、それだけ褒められていると、最初は「さすがに言い過ぎっしょ…」と構えて聴いたのだが、「あ、なるほど、確かに凄い。」と感じさせるだけのパワーがあった。
現代音楽やジャズ、インド旅行で得たインスピレーションと民族音楽的なニュアンス、それらが渾然一体となって、鮮烈な新しい世界を描いてしまっていると感じた。
Arcaなどとの比較を度々見かけるが、サウンド自体の類似性というよりも、音楽を聴いた時の驚きの種類が似ているという意味なら個人的に納得出来た。しかし、個人的にはArcaの2ndよりこちらのほうが断然面白かった。
10. dCprG / Franz Kafka's South Amerika ~フランツ・カフカの南アメリカ~
dCprG /Franz Kafka’s South Amerika 試聴用Special Edit Part.1 - YouTube
アルバム通して熱い演奏。
本作より小田朋美が鍵盤で加入したことにより、音楽性にも変化があったとのこと。
いつかdCprGのライブを観たいとは思うものの、仙台のライブですら客入りが芳しくなく、メンバーの宿泊費の予算が取れなかったため、演奏を早めに切り上げてその日の新幹線で全員が東京に戻った、という話を聞くと、僕の地元である石川などには来てくれるはずもない。
機会があれば遠征して観てみたい。
しかし、菊地さんの自身の作品やプロデュースワークも含め、どれも充実した作品であり、菊地さんは今一番脂が乗っている時期なのかもしれない。
9. KIRINJI / EXTRA 11
KIRINJI - EXTRA 11 (アルバム・トレーラー) - YouTube
去年のリリースされたKIRINJI「11」は僕の去年の年間ベストでは15位に置いたわけだけど、それから1年の間に結局何度も何度も繰り返し聴いていたことを思うと、もっと上でもよかったように思う。
さて、本作はKIRINJI「11」に収録されていた楽曲のライブ音源にポストプロダクションを施して再リリースした作品である。
元がライブ音源な上、アレンジも大きく変わっており、聴きなれた「11」の楽曲たちがまた新鮮な魅力を放って感じられる。
兄弟のキリンジ時代においては、リリースされた音源がその曲における完成系であるように感じられたが、KIRINJIにおいては楽曲がバンドの成熟とともに変化・成長していくことを本作が示したように思え、改めてKIRINJIが堀込高樹のワンマンバンドではなく、ちゃんと”バンド”なのだなと感じることが出来たように思う。(念のため、どちらがいい悪いと言う話ではない)
メンバー達の映像を観てると歳の差こそあれ、皆んな楽しそうにKIRINJIというバンドに取り組んでいるように見え、こんなバンドなら今からでもやりたいなと思える。熱心な固定ファンも沢山いるので活動も安定して行われていくだろう。本当にいいバンドだと思う。
8. Lauren Desberg / Twenty First Century Problems
グレッチェン・パーラト弟子筋のジャズボーカル。どの曲も最高に美メロ。
いつ聴いてもメロメロになっちゃうよぉ…ローレンたん…ハァハァ…。
以上。
7. KIDSAREDEAD / THE OTHER SIDE OF TOWN
Kidsaredead - Typical Captain Achab - YouTube
Lamp染谷さんのレーベル、Botanical Houseからのリリース。
Beatles、Todd Rundgrenといった60〜70年代のロックミュージックが持つポップネスとピュアネスがそのまま現代に鳴っている印象を受ける本作。
「時代が時代ならどれだけ売れていただろう」と思わなくもないが、現代においてももっと沢山の人に聴かれるべきモノであろう。
Lamp周辺やシティポップ好き(もはや死語か…)の若い人たちだけでなく、おじさん世代の音楽好きの人にもグッとくること間違い無しの作品だ。
届くべき人に届いていない音楽が世の中には沢山有りすぎると痛感する。
twitterをみていると、来日時のバンド編成でのライブの評判がすこぶる良かった。次の来日は実現するのだろうか…。次があるなら是非観てみたいものだ。
6. Jim O'Rourke / Simple Songs
Jim O'Rourke - Half Life Crisis - YouTube
ジム・オルークの6年ぶりの新譜であり、14年ぶりとなるボーカル物。
シンプル【simple】
[形動]単純なさま。また、飾り気やむだなところがなく、簡素なさま。
なるほど、確かに本作はその通りなのかもしれない。
しかしながら、本作に宿っている豊かさと説得力は一体何なのだろう。
この作品が単純に、易しく作ることが出来ると思ったら、それは大きな間違いであろう。おそらく偏執的なまでの細部への拘りがあるはずだ。
聴けば聴くほど好きになっていきそう、そんな作品だった。
5. 北園みなみ / Never Let Me Go
去年の「Promenade」に続き、今年は「Lumiere」「Never Let Me Go 」と2枚のミニアルバムを出した北園みなみ。
一枚のミニアルバムとしては「Never Let Me Go 」が一番まとまっているように感じた。
「Promenade」を去年の年間1位においた以上、本作も同等のところにおいてしかるべきなのかもしれないが、このアーティストに対しては少々特殊な思い入れがあり、他の作品と違うモノサシで比べている気がしないでもない。そのため、今回はとりあえずこの位置においてみた。
しかしながら、そういった思い入れを抱かせてくれる自分にとって特別な音楽家が同じ時代を生きていることを素直に喜びたいと思う。
本作は魚返明未(Pf)、楠井五月(Ba)、石若駿(Dr)などの若手ジャズミュージシャンが参加しており、今後の活動の更なる広がりを予感させるものとなっている。
とはいえ、本人にとってはまだまだ納得のいく作品が作れていないようである。本人も納得の快作を期待してやまない。
4. 挾間美帆 / タイム・リヴァー
Miho Hazama: The Urban Legend - YouTube
2013年の1stアルバム「Journey to Journey」の時点で耳の早い人には届いていたようだが、本作で僕の鈍いアンテナもようやく挾間美帆という存在をキャッチした。
多少自虐を挟んだものの、僕以外にもそういう人は多いのではないか?
しかしながら、今年の挾間美帆ワンマンには錚々たるミュージシャンたちが集っており、今年の挾間美帆が如何に見逃せない存在であったかが伝わってくるようだ。
ちなみに「挟間」ではなく、「挾間」と書くのが正確らしい。多くのメディアが間違って書いているが、本人としてはそのあたりに大した拘りはないのかもしれない。
そして、挾間美帆と小田朋美(小田朋美「シャーマン狩り」 - 雨にぬれても)が高校の同級生だということを知り、個人的にとても驚いた。
小田朋美のツイートでその件を知ったのだが、そのツイートに対してついたRTやファボが本当に僅か数件といった感じで、この特別な二つの才能が高校時代に時を同じくしていたことに対する驚きを共有出来る人はまだそれほど多くないようだ。
挾間美帆はクラシックからジャズへの転向組であり、それは音楽にも如実に表れている。ジャズのリズムとクラシックのオーケストレーションが見事に調和し、エネルギッシュでありつつも繊細で美しい世界が浮かんでくるように思う。
また、今年こういう記事(吉松隆 / サクソフォン協奏曲「サイバーバード協奏曲」)を書いたのだけど、挾間美帆は吉松隆のタルカス(正確にはプログレのELPのタルカスを吉松がオーケストラに置き換えたもの)を吹奏楽に再アレンジするという仕事を過去にしており、「色々繋がるものだな」としみじみ感じた。
↓は挾間美帆ワンマン後の楽屋で写真を撮る3人(左:小田トモミン、中央:我らがN/K、右:挾間ミポリン)
3. Kendrick Lamar / To Pimp A Butterfly
Kendrick Lamar - Alright - YouTube
このアルバムに関しては、リリックについてもサウンドについても、もっと読むべきテキストがあちこちにあると思うのであまり多くを語るつもりはない。(大して語れないので…)
今年の僕自身の耳の傾向からすれば、ヒップホップは比較的刺さりにくいジャンルであったかもしれない(実際に新譜を聴く優先順位もかなり低かった)が、やはりこれは文句なく格好良く響いた。
このアルバムがきちんとチャートで1位になるアメリカって、なんて凄い国なんだろう。信じられない。
2. CHRISTIAN SCOTT / Stretch Music
Christian Scott - Sunrise In Beijing (feat. Elena Pinderhughes) - YouTube
今、ジャズが最もスリリングなジャンルであることを体現したような一枚。
凄まじいグルーヴの上に立ち上がる抒情的なフレーズの嵐。
作り込まれた音像が放つ強烈な格好良さとほど良い甘美さのバランスが絶妙。
過去のあらゆるジャズを継承し、正統派でありながら、なおかつジャズを新しいステージに導いてくれる作品のように感じます。
僕の「2015年かっこいいジャケット大賞」にもノミネートしています。
1. PIZZICATO ONE / わたくしの二十世紀
とにかく沁みるのである。沁む。沁む。沁むのである。
小西康晴が自身が過去に関わった楽曲の中で、特に歌詞が気に入っている曲を(中には複数の曲を一曲にまとめている物もある)自身が家で聴きたい形でリアレンジしたものが本作、とのこと。
どの曲もとことん削ぎ落とされたアレンジがなされ、その結果浮かび上がるのは小西康晴の強固なメロディと(厭世観や死生観が練りこまれた)歌詞である。
小西康晴という人は、もしかしたら寂しい人なのかもしれない。音楽以外に心から愛せる人や物が身近に存在しないのでは…?余計な御世話過ぎるが、僕にとってあまり他人事とは言えない。
このアルバムは、東京行きの飛行機の中で聴き、サマソニでディアンジェロのライブを観て、ホテルへの道中で聴き、そして帰りの飛行機でも聴いていた。その事は多分一生忘れない。
もっと歳を重ねて、改めてこのアルバムを聴くとまた違う感触が得られる気がする。これからの人生の様々なポイントで聴き返してみたい。そんなアルバムだ。